一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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最近の拾い読みから(117) ―『エレキ源内 殺しからくり』

2007-01-12 08:29:00 | Book Review
この作者独自の「ファンタジー+時代小説」です。
「ファンタジー」というのは、まず「ありえない/奇想天外」な趣向であること。
この作品でいえば、主人公が平賀源内の一人娘〈つばめ〉であることが、それを支える骨子となっています。

その一人娘が、
「源内秘宝を巡っての、大田直次郎(狂歌師・四方赤良)、娘武芸者、黒頭巾の一団、軽業一座、忍者…入り乱れての大騒動」(「BOOK」データベースより)
を繰り広げる、というストーリー。

個々の展開でも、「聖護院蕪組」なる朝廷の影組織あり、源内が発明した「磁石(じせき)天火」(電磁誘導の原理による発電機)あり、と登場するガジェットも、いかにもファンタジーらしい。

とは言え、「時代小説」の骨格はキチンと押さえているのが、また、この作者の特徴でもあります。

発端が、「第十代将軍徳川家治の嫡子、家基の不可解な死」から始まり、田沼意次と一橋治済(はるさだ/はるなり)との政治的な確執あり、それにも続く陰謀と裏切りありと、この辺は歴史的な事実が述べられています。

その「ファンタジー」と「時代小説」とのミックスの具合が、著者の腕の見せ所、ということになるでしょう。

その点では、本作品は、後半に、北欧神話の「オージン」「トオル」などまで出てきているところが、何とも異質。
まるで、昔々の東映時代劇映画を見ているような感じがします(『旗本退屈男』のような、何でもありの世界)。
別に作者はそれに居直っているわけではないのでしょうが、いくら平賀源内の世界とは言え、ちょっとこれはやり過ぎではないでしょうか。

ちょっと鼻白む部分のある本作ではありますが、構成や文章自体は、それなりの独自のものがあり、上手いものです。
特にお勧めするわけではありませんが、このような傾向のものもあり、というご紹介のつもり。

米村圭伍
『エレキ源内 殺しからくり』
集英社
定価:1,890 円 (税込)
ISBN4087753424