中つ国が滅ぼされて以来五年もの間、ただ一人の姫が身を隠していた異世界では、七月七日に笹の葉を飾り付け、願いを星に託す祭りがあると言う。
こちらでもその祭りをやりたいと言い出した姫は、サザキや布都彦、遠夜あたりの協力的な輩はもちろんのこと、非協力の権化とも言える那岐をも巻き込んで、七夕の飾りを作り始めた。
というのは、つい先ほど、この書庫を訪れた千尋本人から聞いた話だ。そして最後に、今柊の手の中に残っているこの木札を置いていったのだ。
「堅庭に飾ってあるから、柊も願い事を書いて持ってきてね」
楽しそうにそう告げた笑顔は、さながら太陽のよう。禍つ神を打ち消す力を秘めた、白き光。
「我が君…そうして、あなたの可憐な瞳を向けていただく以上に、希うことなどございません」
いつもの調子ではぐらかそうとしたのがわかってしまったのだろうか、千尋は柊の軽口に動じる様子もなく「じゃあそれを書いてみたら?お星様が叶えてくれるかも」と笑った。
いつもは戸惑うか、機嫌を損ねるばかりだというのに、七夕祭りの準備がよほど楽しいと見える。
亡国の姫として、凛と矢を射り皆を率いる姿も魅力的だが、あのように年相応の笑顔を見られると、こちらまで心が安らいでしまう。
中つ国最後の王族としての重責が、あの華奢な体にどれほど重くのしかかっているのだろうと想像すると、まだほんの少女である彼女が不憫に思えた。
「…星の導きとは残酷なものです、我が君」
星を読み、既定伝承をなぞる柊には、星がこちらの願いを叶えてくれるなど考えられない。
星はいつでも、運命へと導くものだ。時に、かけがえのない存在を黄泉へ連れ去り、いたいけな姫を過酷な境遇へと誘っていく。
「…願うなど。望むなど」
運命を刻む竹簡たちが、独り言に耳をそばだてている気がして、柊は唇を閉じた。
代わりに、千尋に渡された木札をもてあそび、唇の端で、ふ、と笑う。
矮小なこの身に許された望みの、なんと小さきことか。
柊は竹簡の棚に背を向け、手の中の木札の、何も書かれていない表面をするりと撫でた。
「…光明のあらんことを」
星よりも強く眩い、白き光明の、あらんことを。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
フォロワーさんのお願いごとを叶えてみよう企画その2!
しきたんのための柊でした!初柊でした!
ちゃんと柊になってるのかしら、これ…なんか申し訳なくなってきた。。。
柊のあの独特の気持ち悪さ、やはり難しいのですね…
書いてて、ずいぶん4の設定とか忘れちゃってるなと思ったので4やりたいです。主にちびなぎに会いたい。
しきたん、お願いありがとー!よろしければお納めくだされ!
こんなのですみませぬ!