もう10年ほど前の話だが、視神経に直接働きかけることのできる方法が見つかれば、目の不自由な方々にとって文字通り「光明」となるのではないか、と考えたことがある。
網膜を通さずに、外部から視神経に電気信号を流し、本来見えるはずの外部の光と影の様子を伝えるといったことが、他の部位に支障にならない手段で可能にするテクノロジーが現在の科学技術をもってすれば実現できるのではないかと素人考えで思ったのである。
しかし、たとえ微弱な電気信号であっても、外部から人体に悪い影響を与えずにできるものなのかどうについては、科学音痴で門外漢の私にとって知るよしもなかった。
単にそんなことが実現できたら救われる人は多いであろうし、そういうところにこそ科学技術の活躍する意義があるだろうと思っただけのことである。
しかし、それ以上の展開が期待できそうな、そして障害を持つ人にとって負担が軽いであろうと思われる発見がなされたという報道を目にした。
それは、様々な種類の細胞に変化できる人のES細胞(胚性幹細胞)から、立体的な構造を備えた網膜組織を作り出すことに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)、住友化学(大阪市)の研究チームが世界で初めて成功した、という知らせである。
動物実験などで治療効果を確かめ、臨床研究を積み重ねて、その技術が確立されれば、失明後も光を取り戻せるだろうと言われている。
試験管的な実験では、人のES細胞約9000個に特殊なたんぱく質を加え、試験管内で126日間培養したところ、細胞は球状の塊になり、眼球のもとになる直径5ミリ・メートルほどの「眼杯」ができたという。その内側には、光を感じる視細胞や、網膜から脳へ信号を伝える細胞など6種類の細胞が重なり、正常な網膜と同じ構造ができていた。
何とすごい発見であろうか。
言ってみれば、このようにして培養された眼杯を症状の重篤な網膜に移植すれば、網膜が再生されるということなのだろう。(そんな簡単なことではないのだろうが)
それにしても、像を結び、視神経に光を伝える「網膜」を再生することが可能になれば、救われる人は多いに違いない。外部から強制的に光信号を送り込む、などといった乱暴な夢想とは次元を異にする朗報であるに違いない。
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