語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】1~2割増しの目標が最も効果が上がる ~知の技法・出世の作法~

2016年02月12日 | ●佐藤優
 (1)日本の大学生やビジネスパーソンと欧米のそれとでは、時間に対する理解が異なる。
 時間が円環をなしていると見るか、直線と見るかで、価値観や人生観がかなり異なってくる。

 (2)日本人の場合、時間を円環と考えるのが普通だ。年末になると、職場ではやり残した仕事を整理し、家では大掃除をする。新しい気持ちになって新年を迎える。年が移るときにリセットし、時間を反復する、という集合的無意識に基づいて多くの日本人がとっている行動(宗教的行事)だ。
 世界のほとんどの地域では季節の変化がある。だから、時間を円環でとらえるのが人間として自然だ。1世紀までは、ヨーロッパ人も時間を円環で考えていた。
 これが、キリスト教の伝播によって変化した。
 ユダヤ教の時間理解を継承したキリスト教は、時間を直線と考える。神がこの世界を創造したときに時間が生まれ、最後の審判のときに時間が終わる。この考え方がギリシア思想と触発し、現在、世界の主流になっている時間理解が生まれた。
 
 (3)ギリシア語では「終わり」をテロスという。テロスには、「終わり」だけではなく「完成」「目的」という意味もある。英語のテオロジーは、目的論のことだ。
 終わり/完成/目的の時点から物事を考えるのが終末論である。
 誤解されやすいのだが、終末論で問題とされるのは、単なる終末/究極ではなく、「終局」すなわち神の創造の目標である。新しき創造の中での古き創造の完成と止揚・・・・完成された神の国のある新しき永遠の時間(来るべき世)の中で、この無限の時間(古き世)が終わりを迎えること・・・・が問題なのである。
 つまり、終末論とは、「終わりから考える」ということだ。終末のときにどうなっているかと考えて、現在を見るのだ。

 (4)(3)の考え方を、欧米人は無意識のうちに、歴史や人生のさまざまな局面において適用している。
 たとえば、厳しい戦闘に直面しているとき、自軍が最後に勝利する姿を思い浮かべて、仮に自分が今ここで戦死してもそれには意味がある、と納得するのだ。

 (5)日本人も、「人生の勝負は墓に入るときでないとわからない」などと言う。
 この終末論的思考を自覚的に取り入れると、がっついた若手ビジネスパーソンの能力向上にも役立つ。知識や技術を習得するという目標を達成した時点を具体的に想定してみるのだ。漠然と考えるのではなく、ノートにその状態を書き出すとよい。
 実現不能な目標はよくないし、自分を過小評価した目標もよくない。通常の努力で達成される1~2割増しの目標を設定したときに最も効果が上がる。

 (6)佐藤優は、2010年1月、年末までに達成する目標を数十件設定した。そのうち3件は、次のとおり。
   ①日本人の圧倒的多数を占める非キリスト教徒にもわかりやすい聖書の入門書を書く。
   ②組踊の脚本を琉球語でいくつか読み解く。
   ③文法を徹底的に解析しながら、チェコ語でカレル・チャペック『山椒魚戦争』を読む。
 ①は、入門書ではなく、新約聖書をじかに読んでもらう『新約聖書Ⅰ』『新約聖書Ⅱ』を出した。積ん読にならないような解説を書いた。読者の手応えがあり、満足のいく仕事ができた。
 ②の組踊は、琉球王国時代、中国からの使節を歓待するためにつくられた宮廷歌劇だが、能の道成寺に似ている「執心鐘入」しか読み解くことができなかった。佐藤優に琉球語を教授していた半田一郎・東京外国語大学名誉教授が8月末に交通事故で逝去したからだ。代わって教授してくれる人はまだ見つからず、現時点での佐藤の語学力では組踊の脚本を自力で読み解くことはできない。
 ③は、目標を達成した。この1年間でチェコ語の読解力が向上したので、あと2年くらいで思想書や神学書の翻訳にとりかかることができそうだ。 
 
 (7)「終末論的発想で学習計画を組み立てると、着実に成果が出る」

□佐藤優「1~2割増しの目標が最も効果が上がる ~知の技法・出世の作法第177回 終わりから考え成果を出す学習計画~」(「週刊東洋経済」2010年12月18日号所収)
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