語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】と時代精神 ~二十にして心已に朽ちたり~

2015年10月12日 | 詩歌
 中唐期の詩人、李賀に「贈陳商」(陳商に贈る)の一編がある。

 長安有男兒 長安に男児有り
 二十心已朽 二十にして心已に朽ちたり
 楞伽堆案前 楞伽 案前に堆く
 楚辭繋肘後 楚辞 肘後に繋る
 人生有窮拙 人生 窮拙有り
 日暮聊飲酒 日暮 聊か酒を飲む

 *

 「二十にして心已に朽ちたり」は、暗い時代の日本人の心に響く。
 粕谷一希は、遠藤麟一朗と「世代」の人々を描くにあたり、書名をここから採用した【注1】。
 粕谷はしかし、典拠を知らぬまま採ったらしい。このあたりの事情について、高田里惠子は次のように書く【注2】。
 <本の題名は、いいだもも【注3】が亡き友「エンリン」の生涯を指して、「長安ニオノコアリ、ヨワイ二十(ハタチ)ニシテ、心スデニ朽チタリ」と言ったことに由来する。「いささか、気楽な酒が廻っていたのか、私はその詩の出所も知らぬまま、ヨワイ二十(ハタチ)ニシテ、心スデニ朽チタリという一句に、強烈なイマジネーションを掻き立てられる想いがした>(pp.258-259)

 ところで、ここでいう暗い時代とは具体的には戦前を指すが、実のところ戦前に限った話ではないだろう。21世紀日本でも、戦前とは別の「時代閉塞の現状」を目の当たりにして、二十にして心朽ちる若者は少なくあるまい。

 【注1】粕谷一希『二十歳にして心朽ちたり --遠藤麟一朗と「世代」の人々』((洋泉社MC新書、2007)
 【注2】高田里惠子『学歴・階級・軍隊―高学歴兵士たちの憂鬱な日常』(中公新書、2008)
 【注3】本名:飯田桃。1944(昭和19)年、現・東京都港区にて出生。東京帝国大学法学部入学。同期に三島由紀夫がいたが、互いに面識はなかった。戦後まもなく、一高生を中心に全国の大学や高校をつなぐ同人誌世代」の創刊に参加。処女作はゾルゲ事件を背景に1940年代を描いた『斥候(ものみ)よ、夜はなお長きや』(河出書房新社、1961)、序文は松田道雄。1960年代後半はベ平連の活動を支え、思想の科学研究会で活動。
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