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恐竜の二足歩行に親しむ

2011-09-16 11:24:17 | 学問

 ティラノサウルスのような肉食恐竜は、貧弱な前脚に対してよく発達した後脚をもち、その後脚を使って二足歩行をしていたものと考えられている。恐竜博2011では、ティラノサウルスがどのように前脚を使ったとみられるかについて説明されていた。座った姿勢状態のティラノサウルスは、地面に前脚をついて、その重心を前方に移し、両方の前脚によって体を支持しながら立ち上がったようだ。

 二足恐竜が立ったり歩いたりするとき、その重心は腰の近くにあったから、頭、胴体および尾がほぼ水平に保たれ、腰を中心として上半身と下半身のバランスがよくとられ、尾が釣合いおもりの役割をしたことは、ほとんど疑いない。人間は、尾をもたないが胴が直立しているため、重心が腰に近い。恐竜でも人間でも他の動物でも、腰とは、両方の大腿骨の上端が接続する部位と考えてよい。そうすると、恐竜も人間も、腰近くの重心を中心にして大腿骨より先の脚部を前後に振って歩く動物と考えてよい。これに対して、ダチョウなど現存の鳥類は、尾らしいものをもたず、胴体の中心線が斜め方向を向いているため、その重心は腰のかなり前方に位置する。このため、鳥は、大腿をほぼ水平に保ったまま、膝から下の脚を前後に振って歩いている。そうすると、人間の歩行のメカニズムは、現存の鳥よりもむしろ二足恐竜のそれに近いと考えてよい。二足恐竜の歩行メカニズムに親近感を覚えるのは、単なる興味本位以上のものがあるためであるように感じられる。

 二足恐竜と人間の歩行メカニズムは、基本的には同じとみられるが、両者には枝葉的な違いもある。まず、ヒトは、かかとから足の指先までが接地する「蹠行」を行うが、恐竜や鳥は、足指だけで接地する「趾行」を行う。次に、二足恐竜が歩くとき、前後方向にはほとんど揺れがなくよく安定しているのに対し、左右方向にはやや揺れを伴うような安定状態であったと考えられる。

 米国ジョンズ・ホプキンス大のドナルド・ヘンダーソン博士は、コンピュータを使ったアロサウルスやティラノサウルスなどの歩行モデルを研究している。彼の研究成果によれば、二足恐竜が歩行するとき、横からみた時の重心は、常に同じ位置(股間接の少し前)を上下しているのに対し、前から見ると、Vの字型の軌跡を描いて左右に揺れている。

 ヘンダーソン博士の歩行モデルを信頼するとすれば、この重心の移動状況から、二足恐竜の歩行の様子を読みとれる。まず、V字軌跡の最低端の時点は、恐竜の重心が最も低い状態にあったときであり、両足が歩幅だけ開いた状態で着地した時点であり、恐竜の胴体は、重心が低いとはいえ揺れのない正規の位置にある。この時点は、一方の脚が支持脚から遊脚に、他方の脚が遊脚から支持脚に切り替わる時点でもある。V字軌跡の一方の頂点にある時点は、恐竜の重心が最も高い位置にあるときであり、胴体が一方の支持脚だけで支えられていて他方の脚が遊脚になっている期間のうち、その支持脚が横からみて最も垂直に近い角度になったときである。この時点は、恐竜の胴体の左右方向の揺れが最大になったときでもある。ただし、このとき支持脚の着地点の中心はこの時点の重心のほぼ真下になければならない。また、二足恐竜の足跡化石をみると、両方の足跡は地面上の一直線に近接した位置についている。この両方の条件を満たすために、前から見たときの支持脚の形状は、膝の関節を左右方向に多少曲げた状態になるようだ。V字軌跡の他方の頂点にある時点についても、他方の支持脚について同様である。

 人間が歩くときも、横からみて支持脚が斜め状態になるときとほぼ垂直状態になるときがあるから、その重心が上下動することは明らかである。しかし、左右方向への重心の移動はほとんど感じられない。人が片足立ちしたとき、重心は着地した足裏の中心の真上になければならない。人は、膝の関節を柔軟に曲げてこの状態に対応しているのだろうか。

 人が歩くとき、支持脚の筋肉が生み出す力によって体を前方に推進させている。このとき、筋肉は人の重心を最低点から最高点へと押し上げる働きもしている。重心が最高点から最低点へと落ちる間に獲得した位置エネルギーの差分を放出するから、このエネルギーが体の推進にいくらかの寄与をしている。二足恐竜についても同様である。

 そうすると、重力のない宇宙で人が床上などの着地面を歩くとき、人体はその重心を押し上げる必要もない代わりに重力エネルギーの寄与を受けることもない。歩行のために脚の筋肉が重力に抗して仕事をする必要もない代わりに、脚の筋肉にかかる負荷が少ないために筋肉の衰えを招くということだろうか。

 参考文献:

  笹沢教一著「恐竜が動きだす」(中公新書ラクレ)

  犬塚則久著「恐竜ホネホネ学」(日本放送出版協会)

  アレクサンダー著「恐竜の力学」(地人書館)