K&A

kan-haruの日記

イベント 東京藝術大学大学美術館 鶯谷から上野まで古寺・古建築を巡り夏目漱石の美術世界展を見るその3

2013年08月21日 | イベント
kan-haru blog 2013       

< 総合INDEX へ

東京藝術大学大学美術館
東京芸術大学美術学部の前身の東京美術学校では、収蔵品を展示するために1929年(昭和4年)に赤煉瓦造の「陳列館」が建てられ、1935年(昭和10年)に白壁、瓦葺で城郭風の「正木記念館」を建設されました。正木記念館は1901年(明治34年)から1932年(昭和7年)まで校長を務めた正木直彦を記念して建てられ、これらの展示館は1970年(昭和45年)東京芸術大学芸術資料館という名称で一般向けにも開館し、展覧会開催中は学外の人も自由に観覧できるようになりました。1998年(平成10年)に芸術資料館は、東京藝術大学大学美術館と改称し、翌1999年にミュージアムショップやカフェテリアを備えた新館が完成しました。
6月28日には鶯谷駅から寛永寺開山堂に寄り、都道452号の道路沿いの古建築を探索しながら東京藝術大学美術部正門より構内に入り、同大美術館で開催の「夏目漱石の美術世界展」を観賞しました。

 夏目漱石の美術世界展図録

・夏目漱石の美術世界展
夏目漱石の美術世界展は、東京藝術大学大学美術館で5月14日から7月7日までの期間に、午前10時~午後5時まで開催され、毎週月曜日が休館です。同展は、東京藝術大学、東京新聞、NHK、NHKプロモーションの主催で、ブリティッシュ・カウンシルおよび新宿区が後援で、岩波書店、神奈川近代文学館、KLMオランダ航空、日本航空の協力で開催し、観覧料は、一般が1,500円で、 高校・大学生が1,000円で、中学生以下は無料です。

 夏目漱石の美術世界展入場券

夏目漱石の美術世界展の内容は、文豪・夏目漱石の作品に登場する古今東西の名画を集め、夏目漱石の美術世界を読み解こうとするものです。展示会で大集合した名画は、名作「坊っちゃん」の会話に登場するターナーや、「こゝろ」のエンディングに深く関わる渡辺崋山の絶筆や、漱石が特に好んだというラファエル前派のロセッティやミレイの代表作などなどと、日本のみならず世界中から集められた名画が並び、当時革新的なデザインで注目を集めた「吾輩は猫である」の装幀本や、漱石自身が描いた珍しい山水画などが登場します。
展示会の展示構成は、序章「吾輩が見た漱石と美術」から始まり、第7章「装幀と挿画」までの八章構成です。展示会場は、展示品の序章から第3章までの作品は大学美術館3階会場に、第4章から第7章までの作品は同地下2階展示会場に展示されています。

 夏目漱石の美術世界展3階展示会場

・序章「吾輩が見た漱石と美術」
序章コーナーの展示作品は、猫の「吾輩」が漱石と美術の関わりをまとめています。夏目漱石は、1867年(慶応3年)に牛込馬場下の町名主の家に生まれ、1895年(明治28年)に中学校の英語教師として松山に赴き、「坊っちやん」の素材を得ました。1900年(明治33年) 官命を受け、英語研究のために2年余りイギリスに留学しました。帰国後、創作活動をはじめて、処女作の「吾輩は猫である」を1905年(明治38年) を執筆しました。
岡本一平は、1886年(明治19年)に函館生まれ、東京美術学校西洋画科を卒業して、和田英作に師事し初めは美術装置の仕事などをしていたが、夏目漱石に認められて朝日新聞社に入社しました。同紙を中心に漫画、漫文形式の作品を数多く発表し、大正期の漫画界をリードしました。「漱石先生」の絵は、漱石先生が愛用の紫檀の小机に向かってちょこんと座り、火鉢と猫を両脇にしたユーモラスに描かれた漫画です。
橋口五葉は、1881年(明治14年)鹿児島市に生まれ、1899年に上京し橋本雅邦に日本画を学びますが、洋画に転じて東京美術学校へ進み、油絵修業のかたわら図案にも才を発揮して、1905年には『吾輩ハ猫デアル』で装幀家としてデビューしました。以後アール・ヌーヴォーを基調とした優美な装本の数々を世に送りました。

 岡本一平の漱石先生(左)と橋口五葉の「吾輩ハ猫デアル」の中編扉の装幀(右)

朝倉文夫は、1883年(明治16年)に大分県大野郡上井田村(現豊後大野市)に生まれ、1902年(明治35年)に東京で彫刻家として活躍していた兄・渡辺長男を頼って上京し、彫塑に魅せられて翌年東京美術学校(現・東京芸術大学)彫刻選科に入学、寸暇を惜しんで彫塑制作に没頭しました。1921年(大正10年)に東京美術学校の教授に就任、ライバルと称された高村光太郎と並んで日本美術界の重鎮でありました。朝倉は、猫をこよなく愛して、野性味を失わない神秘性などに魅力を感じ「吊るされた猫」1909年(明治42年)、「よく獲たり」1946年(昭和21年)などの作品を残した。

 朝倉文夫の「つるされた猫」 

・第1章 漱石文学と西洋美術
1900年に英国に行った漱石は、美術について関心と理解を持っており、早速ナポリの博物館、パリでの万国博、ロンドンでの各地の博物館を訪れて英文学研究とともに美術研究に熱中しました。
漱石文学と西洋美術のコーナーでは、イギリス留学中の美術体験の知識・資料を記している漱石文学作品内に出てくる、西洋美術の画家の作品の展示が見られます。
坊ちゃん」(←ここをクリック「青空文庫」)
「あの松を見たまえ、幹が真直まっすぐで、上が傘かさのように開いてターナーの画にありそうだね」と赤シャツが野だに云うと、野だは「全くターナーですね。どうもあの曲り具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」と心得顔である。....

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「金枝」1834
1775年、ロンドンのコヴェント・ガーデンに生まれる。13歳の時、風景画家トーマス・マートンに弟子入りし絵画の基礎を学び、1年ほど修業したターナーはロイヤル・アカデミー附属美術学校に入学。1819年にイタリアに旅行し、明るい陽光と色彩に魅せられたターナーは特にヴェネツィアの街を愛し、その後も何度もこの街を訪れ多くのスケッチを残しています。また、ターナーはフランス、スイス、イタリアなどヨーロッパ各地を旅行して多数の風景写生のスケッチも残しています。
「金枝」は、ジェームズ・フレイザーの『金枝篇』の冒頭に掲げられた作品で、その書物はこの作品を足がかりに、永い永い思索の旅に出ます。

 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「金枝」1834

薤露考」(←ここをクリック「青空文庫」)
ありのままなる浮世を見ず、鏡に写る浮世のみを見るシャロットの女は高き台うてなの中に只一人住む。活いける世を鏡の裡うちにのみ知る者に、面おもてを合わす友のあるべき由なし。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「シャロットの女」1894年
1849年、両親共に画家の子として、ローマに生まれる。1870年に英国王立美術院に入り、初期の作品のテーマは、ローレンス・アルマ=タデマとフレデリック・レイトンに影響を受けた古典的なものでありました。1874年25歳のとき、ジョンは古典的な寓意画 『眠りと異母兄弟の死』を英国王立美術院の夏の展示会で発表し、この絵はとても好評であったため、毎年英国王立美術院の展示会に招かれました。
「シャロットの女」は、アーサー王物語の登場人物・騎士ランスロットの愛を得られぬことを知った悲しみのあまりに死を選ぶ乙女を描いた作品です。

 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「シャロットの女」1894

・第2章 漱石文学と古美術
漱石は、子供の頃家に50幅以上の絵があり、眺めるのが好きであったようです。漱石の日本美術は、雪舟以降の水墨画、狩野派や円山派などの江戸時代の絵に関心があった様です。
虞美人草」(←ここをクリック「青空文庫」)
長押作りに重い釘隠しを打って、動かぬ春の床には、常信の雲龍の図を奥深く描けてある。薄黒く墨を流した絹の色を、角に取り巻く紋緞子の藍に、寂びたる時代は、象牙の軸さへも落ち付いている。

狩野常信「昇竜・妙音菩薩・降龍」17-18世紀
狩野常信は、1636年(寛永13年)江戸木挽町に生まれ、父狩野尚信が没した1650年(慶安3年)に狩野派を継ぎ、後に家綱に仕えた御用絵師。狩野元信・狩野永徳・狩野探幽とともに四大家の一人とされ高く評価されてきた。
「昇竜・妙音菩薩・降龍」は、「虞美人草」に狩野常信の作品についての記載に近い作品です。3幅対の水墨画で、中央に崖の上で琵琶を弾く菩薩が描かれ、左幅・右幅には雲間から顔を覗かせる昇龍と降龍が描かれています。気品ある菩薩と迫力ある龍が対比的で、濃淡による表現が絶妙です。

 狩野常信「昇竜・妙音菩薩・降龍」17-18世紀

< 総合INDEX へ
毎月1日付けのIndexには、前月の目次を掲載しております(8月分掲Indexへ)
・カテゴリー別Index イベント総目次 2013年版2012年版2011年版2010年版2009年版2008年版2006・2007年版
<前回 イベント 東京藝術大学大学美術館 鶯谷から上野まで古寺・古建築を巡り夏目漱石の美術世界展を見るその2 へ
次回 イベント 東京藝術大学大学美術館 鶯谷から上野まで古寺・古建築を巡り夏目漱石の美術世界展を見るその4
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イベント 東京藝術大学大学美... | トップ | イベント 東京藝術大学大学美... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

イベント」カテゴリの最新記事