ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

“ A SHOE- SHINE MAN ”

2010-11-23 00:09:00 | 白井さん

 
 先日、“白井さんの靴磨き”を動画で撮影させていただきました。

 何はともあれまず上の写真をクリックしてみてください!

 動画サイト『You Tube』にリンクします。

 全編ノーカットです!





 “白井さんの靴磨きが見たい!!”

 今回の試みは、この項“白井さん”を始めた当初からずっと私の中で密かに暖めていたアイディアでした。その想いをようやく実現でき、そして初めて白井さんの靴磨きを拝見でき感無量です。まずは何よりも、この不躾なお願いを快く受けてくださり、撮影に際してはこれ以上無いほどの“シューシャイン”をご披露してくださった白井さんに、この場をお借りして改めてお礼を申し上げます。白井さん、ありがとうございました。

 左の写真は信濃屋さんのHP『信濃屋オリジナルシューズ予約会のご案内』(2006年11月17日掲載)に載ってる一枚。数年前、雰囲気のあるこの一枚の写真を見て“かっこいいなぁ~”と思ったその想いが今回のアイディアの源泉でした。

 今回の試みでも、上掲の写真のように上着を脱いで、愛用の靴を手に軽やかな手つきで磨く白井さんの姿が撮影できれば、との想いでいたところ、意外にも白井さんはかなりカジュアルな装いで撮影に臨まれました。なかなか拝見できない白井さんのプライヴェート・スタイルに初めは戸惑いましたが、その装いを選ばれた理由はすぐその後にわかりました。

 なんと、驚いたことに、白井さんはまさに本職のシューシャイナーさながらのやり方で靴磨きをされると仰るではありませんか!確かにスリーピース姿では無理な試みです(汗)。そして、私に白井さんが1960年代から長年愛用されてきたジョンストン・マーフィー(米)の最上位モデル“クラウン・アリストクラフト”シリーズのサドルシューズを履くように促され、その私の足元を磨くと仰るのです!

 これほど恐縮したのは生まれて初めてというくらいにビビッてしまった私でしたが、これほどの幸運もまた滅多にあることではありません。私は恐る恐る、白井さんが用意してくださった台の上に足を置きました。緊張で固まった身体はむしろ靴を磨くには都合が良かったのかも(苦笑)。

 『こうやってやらないと力が入らないでしょ。新しい靴なんかは特にそうなんだけど、最初にちょっと硬いキャンバスで思いっきり力を入れてこすらないとダメなんだよ。そうしないとワックスがすぐに剥がれてくるし、その後の光り方だって変わってくるんだよ。とにかく“基礎作り”が大事。』

 白井さんは新しい靴を購入された時は、ご自分で靴を履かれた後、台の上に足を置き、力いっぱい磨いて最初の“基礎作り”をされるのだそうです。まさに驚嘆すべき事実!
  


 白井さんは靴磨きにKIWIのワックスを愛用されています。使うのはそれのみ。他には硬めのキャンバス地、綿ネル、柔らかいネル、の3種の生地、そして水だけです。ワックスはたっぷり使うそうです。

 前述の“基礎作り”の手順は、まず最初にブラシにワックスをたっぷり塗りつけて靴全体に馴染ませます。その後硬めのキャバスで力をこめて“パンパン!”と小気味よく磨きます。

 ワックスをふき取る感じで磨いた後、今度は指にワックスを取り靴全体に塗りつけていきます。ここで“水”の出番。『ピッ、ピッ』と指で水を弾きながら靴に乗せ、再びキャンバスで磨きます。と、ここまでが大事な“基礎作り”。革の表面の毛穴を埋めていくイメージのようです。女性がお化粧で行う“下地作り”と全く一緒ですね!そういえば、あのIKKOさんも同じようなことを言ってたような・・・。

 その後は綿ネルを中指にきつく巻きつけ、人差し指を上から添えてワックスを丹念に丁寧にゆっくりと、トウ、足の甲、コバ付近、踵周り、履き皺の中にいたるまで全体に万遍無く塗りこんでいきます。ワックスの加減、水の加減、ちから加減、は経験で感覚的に憶えるものなので言葉では伝えられない、とのことです。

 『トウは最初に力を入れてこするから革の色が次第に剥げて白っぽくなってくるけど、反対に踵の方は色が濃くなってくるんだよね。あと、高い革使ってるからって光るって訳じゃないんだよね。意外と安くて質の悪い革のほうがよく光ったりするんだよ(笑)。』

 仕上げは、再び指で水を弾いて乗せた後、今度は柔らかいネル生地でやさしく包むように磨きます。

 そして、最後に親指で足先を“ピンッ!”と弾いて終了(笑)。この所作は、白井さんが“世界一上手い”と今もなお称え続けている靴磨きのお兄さんの真似なのだそうです。

  その後、白井さんは靴を手にとって再び綿ネルで磨き始められましたが、それは白井さん曰く“普段の手入れ”とのことです。

 『ゆっくり、ゆっくり、少しずつ、ね。自分でやる時は納得いくまで磨くから時間掛かっちゃって“商売”にはならないよ(笑)。』



 今回白井さんがご披露してくださった磨き方は、戦後、伊勢佐木町で進駐軍の兵隊さん達を相手に靴磨きをしていたシューシャイナーたちのやり方そのまま。当時高校生だった白井さんは、唯一持っていたという黒の革靴を履いてせっせと足を運び、その技を見よう見真似で憶えたそうなのです。1回で30円、米兵達はちょうど朝鮮戦争で景気が良く、100円とか、中には1$ポンっと置いていく者もいた、そういう時代だったとか。

 『米兵達は私服で磨きに来るんだけど、皆おしゃれして恰好つけてさ、中でも黒人の兵隊はさらにカッコつけてるんだよ。チャコールのフランネルのスーツに、鏡みたいに光らせたピッカピカの黒い靴履いてさ、もうそれ以上磨けないんじゃないかってくらいのね(笑)。それにピンクの靴下を履いたりしてさ、何処かにないかなって方々探したけど、当時そんなもんある訳ないよな(笑笑)。』

 シューシャイナーは5人ほど居られたそうで、5台くらいのシューシャインスタンドが並んでいたそうです。その中でも“世界一上手かったお兄さん”が白井さんのお目当てで、そのお兄さんに当たるように、と思いながら順番待ちの列に並んていたとか(笑)。

 『靴を磨いている間は米兵は新聞や雑誌を読んだりしているんだけど、その足元でシューシャイナーたちが日本語で米兵の悪口言ってたりしてさ(笑)。キャンバスをこうやって“パンッパンッ!”ってやりながらカッコつけて磨いてたよ。』



 『高校時代になると、さらにアメリカは未知なる憧れとなり、映画で見るシカゴのギャングのちょっと悪だけれどエレガンスなファッションに心ときめき、伊勢佐木町を流れるカントリー&ウエスタンと闊歩するアメリカ兵を羨望し、その魅惑的な空気が私のファッションへの興味へとつながっていきました。』(信濃屋さんHP・白井俊夫のおしゃれ談義より)

 当時の情景を想像してみますが、それを結像させるにはあまりに縁少なく、当時の写真なぞ何かないかとネットを検索しても、なかなかこれといったものは見当たりませんでした。せめて動画の中だけでも当時の雰囲気を少しでも出せたらと、BGMには白井さんが大好きなカントリー&ウェスタンの、その中でも“神様”と讃えられている“ハンク・ウィリアムス”の名曲の数々を使わせていただきました。

 白井さんの10代から20代の頃はカントリー&ウェスタン華やかなりし時。以前ちょっとだけ白井さんから伺ったのですが、白井さんがカントリー&ウェスタンが好きになったのは、やはり当時の時代背景が大きく影響しているそうです。その後様々な音楽が日本に現れ続けても、白井さんはカントリー&ウェスタン一筋。着こなしや靴磨きと同じで、白井さんは些かも“ブレ”ません

 『僕のやり方はただただ単純に光らせるだけ。革に良いとか悪いとかも全然考えないよ(笑)。でもこのやり方で50年以上履けてる靴があるんだからそれで充分でしょ。どんな靴でも、それが一万円の靴でも十万円の靴であっても、手入れしていれば綺麗に履けるんだから。』



 最後になってしまいましたが、今日の着こなしを。今回はかなりカジュアルな装いでしたので、流石の白井さんも撮影を躊躇されていましたが、これこそ貴重な機会なので私は迷うことなく撮影させていただきました。動画でばっちり写っちゃいますしね(笑)。

 今回の靴磨きにあたり白井さんが選ばれたのは、普段着として使われているマロ(Malo伊)のカシミア・スウェーター。このブログ初のピンクです(笑)!以前、
 
 『俺はね、“俺は何色だって似合うんだ”と思ってず~っとやってきたよ。』

 と仰っていた白井さん。でも、今までピンクは一度も出番が無く、私は“さすがにピンクだけはお嫌いなのかなぁ・・・”と思っていたのですが、やはり白井流。これで主だった色は全て登場したことになりました。

 スリップオンはバス(米)のウィージャン。こちらも“ご近所までちょっと”という時に履かれる普段着用だそうですが、それでもピカピカです(汗)。

 そして初のジーンズはこだわりのラングラー(Wranglar 米)。

 『ジーンズといったら“ラングラー”(笑)。カントリーといったら“ラングラー”、テキサスといえば“ラングラー”。リーヴァイスとかも何本かあるけど、やっぱりラングラーしか履かないね。』

 とのこと!お帰りは軽めのダッフルにキャプテンキャップとカシミアのガーゼ織りのマフラー。

 靴磨きも、カントリーも、そしてラフでカジュアルな着こなしでも、やっぱり一本の筋が“ビシッ”と通っている、それが“白井流”なんですよね。



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