紅葉狩り

明日はお花見会主催、紅葉狩りです。十数年前の作品から。元気だった頃のエリーがここに載ってました。

　　　「紅葉狩り」

「明日は、ドライブに行かないか」　
　夫から声が掛かった。毎日のように続く晩秋の澄みきった青空を見ては「何処かに行きたいな」と、思っていた矢先である。　
　夫は夏に転職して以来、ほとんど休みを取っていなかった。たまに日曜日に休んでも、疲れていそうで声を掛けにくい。
　翌朝七時に末っ子のエリーを連れて車に乗り込んだ。最近ではこの犬だけが私たちの連れである。東名に乗ると、じきに雪をかぶった富士の頂がひょっこり顔を出した。まわりの山々には、そこかしこに色付いた木々が見える。道が空いていて、九時には御殿場の見晴らしの良いところまで来ていた。富士山を前にした草原にエリーを放すと、芝生が霜で濡れているにもかかわらず、うれしそうに走りだした。もう呼んでも知らん顔。紐で繋がれずに自由に走れるのが楽しいのだろう。
　アメリカにいたときも、良くドライブを楽しんだ。ハロウィーンのころ、公園や山々の木々が赤く色付いた。名前も知らないその木は、銀杏の木のように大きく、葉もかなり大きかった。そして、その赤ときたら、まさに真紅色。見応えのある紅葉であった。その色が脳裏から離れていないので、日本に帰ってきてからというもの、どんなにきれいな紅葉を見ても、それほど感激はしなかった。
　わたしもエリーのようにあの真紅色の紐で繋がれていたのだろう。自由に紅葉を楽しめなかったようだ。が、今年は違った。紐から解き放たれて、日本の風景にとけあっている紅葉を満喫できた。懐かしい、また、いとおしい紅葉。たぶん、久しぶりに持ったゆっくりとした時間が、そうさせてくれたのだろう。
　箱根で買った温泉まんじゅうをお土産に、早々に家路に就いた。