ツバキ文具店 | |
小川 糸 | |
幻冬舎 |
司法書士は,その昔代書屋と呼ばれていた。私が就職した昭和54年の頃でも,時々代書さんと言われていた。さすがに平成に入ってからは,もう言われなくなった。
ツバキ文具店の主人公である鳩子は文具店をを営みながら副業として代筆屋をやっている。
司法書士の代書は,不動産登記法や商業登記法に基づく申請書の代書(正確には代理人となって申請するから単なる代書ではないが)であるが,鳩子の仕事は依頼者の名前で依頼者に変わって手紙を書くので,まさしく代筆屋である。
ペットの猿が死んだ人へのお悔やみ状,離婚した夫婦の報告書,絶縁状,夫(依頼者にとってはお父さん)の手紙を待ちわびている認知症にかかった母への手紙など,しんみりしたり,あるいはなるほどと参考になる手紙ばかりである。
文字のきれいな人って,色々な文字が書けることに感激!
物語の舞台は鎌倉。鎌倉って本当にお寺だらけですよね。鎌倉は町全体が巨大なお墓といっても過言ではない,とか心霊スポットだらけだとか鎌倉にすんでいる人にしか言えない言葉だと思います。
鶴岡八幡宮,鎌倉宮,若宮大路などが頻繁に出てくるので,鎌倉に観光で行かれた方にも親近感があります。
鳩子は,祖母に厳しく育てられその期待通りに文字の練習をするが,とうとう高校2年の夏に反乱を起こして不良になる。その後祖母が死ぬまで,心を通わせて話をすることがなかった。でも祖母はいつも鳩子のことばかり考えて生きていたことを,イタリヤから来た青年の持参した手紙で知る。家族も恥ずかしがらないで話をしないといけませんね。
鎌倉と手紙と文房具が好きな人にお勧めです。心がほんのり温かくなります。