WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

イッツ・オール・ライト

2007年03月16日 | 今日の一枚(W-X)

●今日の一枚 139●

Wynton Kelly     It's All Right

Watercolors0008_2  斬新なジャケットである。何かしら楽しげな雰囲気のあるジャケットだ。ウイントン・ケリーの1964年録音作品『イッツ・オール・ライト』……。

 ウイントン・ケリーを「ひたすらハッピーな脳天気節と、哀調をおびたフレーズが違和感なく同居する独自のメロディー感覚で、完全にオリジナリティーを確立させたピアニスト」と評したのは、後藤雅洋氏であるが(『新・ジャズの名演・名盤』講談社現代新書)、このアルバムを聴く限り、後藤氏の言は至言というべきだろう。心躍るような楽しげな演奏からノスタルジックな曲まで、トレードマークのシングルトーンがゆったりと響く。ケニー・バレルのブルージーなギターが絶妙のアクセントをつけているのもたまらない。なかなかにいい気分だ。

 ケリーは若い頃(ジャズを聴きはじめの頃)よく聴いた。アルバムもそこそこ所有している。しかしよく考えてみると、ここしばらくはケリーの音楽に接してこなかったように思うのだ。なぜだろう。たぶん、刺激が少なかったのだ。ケリーのような穏やかで趣味のよい音楽は、ジャズに過剰な何かを求めて聴いてしまうとつまらなく感じてしまうのではなかろうか。

 しばらくぶりにケリーの音楽に接したが、これがなかなかいいではないか。若い頃のように性急に何かを求めるのではなく、気持ちに余裕をもって、ゆったりとした気分で聴いてみると、その演奏がじわじわと身体にしみてくる。それは、突き刺すような刺激ではないが、ゆっくりとゆっくりと細胞の隅々までしみわたるようだ。

 当然のことかもしれないが、音楽は聴くもののスタンスによって、まったく違って聞こえてくるものだ。