雪ふりつもる有縁無縁の墓と墓
雪ふりつもる鰯を焼く
雪ふる一人一人ゆく
雪をかぶりて電信棒の朝
雪を見てゐるさびしい微笑
雪をよろこぶ児らにふる雪うつくしき
雪あかりわれとわが死相をゑがく
雪かなしく一人の夜となりけり
雪がふるしみじみ顔を洗ふ
雪のあかるさが家いつぱいのしづけさ
雪のしづけさのつもる
雪はしづかにみんなしづかに
雪ちらちら一天に雲なかりけり
雪ちらりちらり見事な月夜哉
雪ちるやおどけも云へぬ信濃空
雪ちるや七十㒵(がほ)の夜そば売(うり)
雪の戸や押せば開くと寐てゝいふ
宿かさぬ燈影や雪の家つゞき
雪の旦(あした)母屋(もや)のけぶりのめでたさよ
雪つみて音なくなりぬ松の風
夜の雪寝てゐる家は猶白し
埋火や我かくれ家も雪の中
ひごろにくき烏も雪の朝(あした)哉
雪かなしいつ大佛の瓦葺(かはらふき)
(信濃路を過るに)
雪ちるや穂屋の薄の刈残し
君火をたけよきもの見せむ雪まるげ
二人見し雪は今年も降(ふり)けるか
建ていそぐ大工の音が遠く師走の月あかり
月からこぼれて師走の雨のぬくい音
街は師走の売りたい鯉を泳がせて
街は師走の広告燈の明滅
街は師走の、小猿も火鉢をもらつてる
街は師走の、八百屋のたまねぎ芽をふいた
師走の空のしぐれては月あかり
師走のポストぶつ倒れてゐた
師走の街のラヂオにもあつまつてゐる
師走のゆきゝの知らない顔ばかり
師走街角ひそかにも霊柩車が
師走夕暮、広告人形がうごく
師走ゆきこの捨猫が鳴いてゐる
うぐひすの老母草(おもと)に来ぬる師走哉
うぐひすの啼(なく)や師走の羅生門
梅さげた我に師走の人通り
お物師の夜明を寝ゐる師走哉
炭売に日のくれかゝる師走哉
彳(たたずみ)て女さゝやく師走かな
浮遊(ぶゆ)ひとつ障子に羽打(はうつ)師走哉
かくれけり師走の海のかいつぶり
節季候(せきぞろ)の來れば風雅も師走哉
たび寝よし宿は師走の夕月夜
月白き師走は子路が寝覺哉
何に此(この)師走の市にゆくからす
雪と雪今宵師走の名月歟(か)
わらんべは目がねにしたる氷かな
我死なば墓守となれきりぎりす
我好(われすき)て我(わが)する旅の寒(さむさ)哉
(八才の時)
我と来て遊ぶや親のない雀
(「親のない子ハどこでも知れる、爪を咥へて門に立」と
子どもらニ唄はるゝも心細く、大かたの人交りもせずして、
うらの畠ニ木萱など積たる片陰に跼りて、長の日をくらしぬ。
我身ながらも哀也けり。六才弥太郎)
我と来て遊べや親のない雀
(此裡に春をむかへて)
我もけさ清僧(せいそう)の部也梅の花
わんぱくや縛(しばら)れながらよぶ蛍