大声に夜寒かたるや垣越(かきごし)に
大寒と云(いふ)顔もあり雛(ひひな)たち
大空の見事に暮る暑哉
大寺や主なし火鉢くわんくわんと
老が身の値ぶみをさるゝけさの春
老けりな扇づかいの小ぜはしき
老たりないつかうしろへさす団扇
老ぬれば只蚊をやくを手がら哉
老ぬれば日の長いにも泪かな
うら壁やしがみ付(つき)たる貧乏(びんぼ)雪
うら住や五尺の空も春のてふ
売家につんと立たる冬木かな
売飯に夕木がらしのかかりけり
うろたへな寒くなる迚(とて)赤蜻蛉
梅咲て一際人の古びけり
梅咲て身のおろかさの同(おなじ)也
梅咲くやあはれことしももらひ餅
梅咲や信濃の奥も草履道
梅咲やしやうじに猫の影法師
梅さけど鶯なけどひとり哉
梅がゝに障子ひらけば月夜哉
梅がゝに引くるまりて寝たりけり
梅がゝやどなたが来ても欠茶碗
梅がゝや針穴(はりあな)すかす明り先
梅が香をすすり込だる菜汁哉
うまさうな雪がふうはりふはり哉
馬の草喰ふ音してとぶ蛍
馬の子の故郷(こきやう)はなるゝ秋の雨
馬迄もはたご泊りや春の雨
海見えて一汗(ひとあせ)入(いれ)る木陰哉
うつくしく油の氷る灯(ともし)かな
うつくしや雲一ツなき土用空
うつくしや年暮きりし夜の空
うつくしや雲雀の鳴し迹の空
うつくしや若竹の子のついついと
薄壁や月もろともに寒が入(いる)
うす闇(くら)き角力太鼓や角田川
埋火や白湯もちんちん夜の雨
打水(うちみづ)や挑灯(てうちん)しらむ朝参り
(母に遅れたる子の哀さは)
団扇の柄なめるを乳のかはり哉
今尽きる秋をつくつくほうし哉
今のめる迄も花さく老木(おいき)哉
今迄は罰もあたらず晝寝蚊屋
今迄は踏れて居たに花野かな
いろりから茶の子掘出す夜寒哉
鰯めせめせとや泣子負ひながら
寝(いね)あまる夜といふとしにいつか成ぬ
井の底もすつぱりかわく月よ哉
井の底をちよつと見て来る小てふ哉
今上げし小溝(こみぞ)の泥やとぶ小蝶
今来たと㒵(かほ)をならべる乙鳥哉
今しがた此世に出(いで)し蟬の鳴
石畳つぎ目つぎ目や草青む
石仏(いしぼとけ)誰(たれ)が持たせし艸の花
一日も我家ほしさよ梅花(うめのはな)
一人(いちにん)と帳に付(つけ)たる夜寒哉
一本の鶏頭(けいとう)ぶつゝり折(をれ)にけり
筏士(いかだし)の箸(はし)にからまる蛍哉
生残り生残りたる寒さかな
(火葬場で亡父の遺骨を拾った朝の作)
生(いき)残る我にかゝるや艸の露
いざゝらばさらばと厂(かり)のきげん哉
いざゝらば死(しに)ゲイコせん花の陰
いざゝらば露と答(こたへ)よ合点(がつてん)か
菴(いほ)の苔花さくすべもしらぬ也
菴の大根客有度に引れけり
菴の餅雪より先に消にけり
菴の夜は餅一枚の明り哉
菴(いほ)の夜や棚捜(たなさが)しする蛬(きりぎりす)