霞の中を友の方へいそぐ
友にきくセメント岩や枯芒
友や待つらんその島は晴々と横たはれり
月の友石山寺の傘二本
興尽(きようつき)た雪にもこりず月の友
玉河(たまがは)のうた口ずさむ鰒(ふぐ)の友
中々にひとりあればぞ月を友
水と鳥のむかし語りや雪の友
雲とへだつ友かや雁のいきわかれ
さしこもる葎(むぐら)の友かふゆなうり
子(ね)の日しに都へ行(ゆか)ん友もがな
半日は神を友にや年忘レ
米(よね)くるゝ友を今宵の月の客
刈稲(かりいね)の神に仕ふや土の恩
夏山や神の名はいさしらにぎて
裸身に神うつりませ夏神楽
苗代や立(たて)ゆがめても伊勢の神
ゆく春や川をながるゝ痘(いも)の神
ゆく春や横河(よかは)へのぼるいもの神
この松のみばえせし代や神の秋
猶見たし花に明行(あけゆく)神の顔
留主(るす)のまにあれたる神の落葉哉
我も神のひさうやあふぐ梅の花
半日は神を友にや年忘レ
都いでゝ神も旅寝の日數(ひかず)哉
月に名を包みかねてやいもの神
崖から夢のよな石楠花で
少年の夢のよみがへりくる雪をたべても
波音おだやかな夢のふるさと
店のさゞめき夢のよに火燵なつかしむ
やるせない夢のうちから鐘が鳴りだした
あんな夢を見たけさのほがらか
病めばをかしな夢をみた夜明けの風が吹きだした
歩いて東京へ行く夢も長い夜で
夢の女の手を握つたりなどして夢
夢深き女に猫が背伸びせり
健は離れて遠い私の独り子の名
うとうとすれば健が見舞うてくれた夢
流藻に夢ゆらになり夏の蝶
旧友来庵
ふたりいつしよに寝て話す古くさい夢ばかり
ふるさとの夢から覚めてふるさとの雨
阿古久曾(あこくそ)を夢の行衛(ゆくへ)や竹婦人
朝霧や絵にかく夢の人通り
みじか夜やおもひがけなき夢の告(つげ)
足袋はいて寢る夜物うき夢見哉
手(た)まくらの夢はかざしのさくら哉
藪入の夢や小豆のにへる中(うち)
蛸壺(たこつぼ)やはかなき夢を夏の月
富士の雪蘆生(ろせい)が夢をつかせたり
あすは粽(ちまき)難波の枯葉夢なれや
旅に病(やん)で夢は枯野をかけ廻(めぐ)る
餅を夢に折結(をりゆ)ふしだの草枕
夢よりも現(うつつ)の鷹ぞ頼母しき
夏草や兵共(つはものども)がゆめの跡