ひのっき

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「日露戦争、資金調達の戦い」は戦争とお金、世論の仕組みを分かりやすく描いた名著

2017年03月02日 | 絵日記
日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書)
板谷敏彦
新潮社

板谷敏彦先生の「日露戦争、資金調達の戦いー高橋是清と欧米バンカーたち」を読みました。

凄い本です。勉強になりました。


日本がロシアへ宣戦する際、最大の懸念材料が戦費でした。
当時の国家予算の実に数倍もの戦費が必要との試算に、元老たちは頭を悩ませます。
特に深刻なのは外貨の不足です。
円は最悪、増税と国債の発行によってなんとか調達できます。
しかし資源輸入国の日本は、外貨がないと兵隊用の外套一枚、砲弾一発も作れません。
そこで政府は日銀副総裁高橋是清を英国に送り込み、当時の基軸通貨であるポンド建てで公債の発行を試みます。
しかしまだまだ国家の信用が低い日本は、高金利を提示してもロンドンの金融機関から相手にされません。
そんな日本を尻目に低金利で潤沢な資金を調達するロシア。
絶望的な状況の中、高橋是清は百戦錬磨の欧米バンカーたちと渡り合い、戦費を調達することができるのか!というお話。

金融と戦争の関係が詳細に分かりやすく記載されており、目から鱗がボロボロこぼれます。
日本が戦闘に勝つたびに戦前は低かったロシアの公債金利が上がり続け、ロシアは資金調達に苦しむことになります。
ロシア皇帝ニコライ二世の戦争継続意欲は、日本海海戦によるバルチック艦隊の壊滅をもってしても挫くことはできませんでした。
しかしその敗戦は欧米金融機関の融資意欲を挫き、結果ロシアの戦費調達が停止し、戦争継続が不可能になります。
結局日露戦争を終結させたのは、日露共に行き詰った資金調達事情でした。

講和でのエピソードも秀逸です。
「新聞屋にネタをくれてやるために来たわけではない!」と言い放ち秘密主義を貫く日本全権小村寿太郎。
それに対しロシア代表ウィッテは積極的な記者会見や記者懇談会を行い、また売れそうなネタをリークするなど新聞記者たちへのサービスに努めます。
これにより当初日本に同情的だった欧米メディアはみるみるロシア寄りになり、欧米の世論形成に大きな影響を与えました。

戦争とお金、世論の仕組みを大きなスケールで分かりやすく描き切った名著です。