(フィナンシャル・タイムズ 2010年1月18日初出 gooニュース) ミュア・ディッキー東京支局長日本与党の大物、小沢一郎幹事長は囲碁が得意なだけに、囲碁ならではの大逆転について百も承知しているはずだ。古代中国発祥の囲碁では、難攻不落としか思えない戦況が、優れた相手の攻めで一気に崩れ落ちることもあるし、しぶとい粘りの守りで思わぬ勝ちを拾うこともある。
日本戦後最大の政治変革を操ってきたとされる小沢氏は、日に日に拡大する政治資金問題の検察捜査にも今のところ臆する様子はない。元・現秘書が3人逮捕され、与党・民主党の支持率は不安なほど下落しているのだが。
週末に開かれた民主党の党大会で、67歳になるこの選挙の名手は、検察捜査と「全面的に対決していく」と宣言。「これがまかり通るなら、日本の民主主義は暗たんたるものになってしまう」とも述べた。
しかし一部アナリストは、そもそも検察は昨年夏の民主党による歴史的な衆院選大勝に先立ち、すでに小沢氏の政治資金を標的にしていたのだし、日本の強力な検察組織に小沢氏が立ち向かっていったとしても、それはとても勝ち目のない対局だと見ている。民主党は景気回復と二番底回避に努力しながらも、政権獲得からわずか4カ月の間に次々と問題に巻き込まれている。
大手新聞各社がこのほど発表した世論調査結果は、ただでさえ閣内不一致や揺れる政策ゆえに支持率を下げていた民主党が、現職衆議院議員を含む小沢氏側近たちの逮捕でさらに打撃をこうむったことを示していた。
読売新聞の世論調査によると、鳩山内閣の支持率は前の週から11ポイント下げて45%どまり。回答者の70%が、「選挙の神様」と呼ばれる小沢氏について、幹事長職を辞職すべきと答えている。
こうした世論調査結果を見ていると、7月に予定される参院選で民主党多数を確保し、自民党に対する勝利を決定的なものにしようという小沢氏の計画が、小沢氏の政治資金団体による2004年の土地購入をめぐるとされる検察の捜査によって頓挫しかねないことが分かる。
しかし政党政治に対する小沢氏の好戦的な姿勢は民主党にとってプラスであると同じくらいマイナスなのではないかと、そういう懸念が民主党内にかねてからあったのは事実だ。
1993年に自民党を離党した小沢氏は、自民党の長い権力独占を終わらせようとする勢力の中でも、最も影響力の強い実力者だったと言える。しかし小沢氏は同時に、戦後初の非自民党政府を1994年に壊した張本人と周りの政治家たちから見られている。自らの影響力拡大のために次々と政党を作っては解散させるその独断的な手法は、野党不一致の原因だと後から指摘されるようになった。
小沢氏の政治スタイルは「相談せず説明せず説得せず」だと、国際政治経済情報誌「インサイドライン」編集長の歳川隆雄氏は話す。
小沢氏が自分の政治資金に対する検察捜査に公然と反発し批判してみせたことが、現在のより大がかりな捜査の呼び水となったのではないかと、歳川氏は見ている。大物・小沢氏の立場は危ういとも歳川氏は言う。
一方で、ここ数週間にわたり国内メディアをにぎわせてきた捜査情報のおびただしいリークに憤り、既存権力の仕組みを変えようとする民主党の脅威を無力化するのが検察の狙いではないかと批判する声もある。
それでも小沢氏の問題は、よろよろつまづく鳩山政権にいくばくかの恩恵をもたらす可能性もないわけではない。
「小沢氏が自分の問題に忙殺されている間、鳩山政権は小沢氏の言いなりというイメージを払拭しやすくなるかもしれない」 親・民主党の政治アナリスト、トバイアス・ハリス氏は先週、ブログ「Observing Japan」にこう書いているのだ。