山の頂から

やさしい風

父子

2010-03-06 23:50:40 | Weblog
  弟は亡き父と同じ道を歩んだ。
しかし、その世界での生き方は真逆であった。
父の、仕事に対する姿勢は職人気質。
子煩悩で家庭を大事にした。
足利から転勤してきて、この地で一生を終えた。
だから私と弟は一回だけ学校が変わった。

 弟は若くして出世街道を突き進んだ。
転勤は数え切れない。で、単身赴任が長かった。
任地1年と云うことも多かった。
大変なストレスであったろう。
いつの頃からか性格が頑固になっていた。

 子供の頃の優しいがひ弱でメソメソしていた彼は、
すっかり消えていなくなっていた。
競争の激しい、ストレスの多い職場で勝ち抜いていくには、
そう変化せざるを得なかったのだろう。

   栄転の君が肴の鰆かな    初桜

 朝の散歩で時折挨拶を交わす父子がいる。
小学4年生くらいの少年が父親と紫陽花坂を上がってくるのだ。
平日の早い朝もある。
「ボク、こんな早くに偉いのね~」と今朝は声をかけた。
父親が随神門の前に立ち、送れて上がってくる少年を待っていたのだ。
「無理に連れてくるんですよ」 父親は笑いながら言った。

 四季の移ろいや朝の新鮮な空気、
早朝の神住む山を数百段の石段を登り切って額づく清々しさ。
必ずや少年の心に降り来るものがあると思う。

 「きっと、いい大人になるわね」と言うと、
「そうなってくれるといいんですけど・・・」と父親が少年を見つめた。
「大丈夫!!きっと、なるわ~~」 私は少し大きな声で答えた。
気持ちのいい啓蟄の朝だった。

   啓蟄の柏手弾む神の山    初桜

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