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江戸時代の外科手術(5)-鉄砲之玉をぬく方- (修正版)

2015-06-11 19:39:24 | 江戸時代の医学

 今回は鉄砲で撃たれて、その銃弾が体内に残った時にそれを摘出するための手術です。現代の日本ではほとんど関係ないですね。でもこれも歴史と文化の勉強です。

 「賤ヶ岳合戦図屏風」

先其疵、此如灸ヲシテ、抜薬ヲ入テヲケバ六七日ホドシテクサルナリ。其時キリヤブリ玉ヲトリ出シ、アトニハ青膏ヲ付ヨ。



 銃弾が身体の深くに残った場合は、上の図のように銃創とその周囲の四点に灸をします。灸とはヨモギから作られた艾を身体の表面で燃やす治療法のこと。もともとはユーラシア大陸の遊牧民族、烏丸族などの伝統的な治療法でした(正史『三国志』魏書参照)。それが春秋戦国時代あたりには中国にもたらされ(『孟子』参照)、その後日本へ輸入されたようです。灸は身体を温めるという作用とともに、患部を熱により消毒する作用があります。また人工的に火傷を作ることにより、白血球数などが増加することが知られています。
 抜薬については後にくわしく記されています。

亦処アサク玉アラバ、当座ニキリヤブリ、テンタヲ入テスクヒトルナリ。

 銃弾が浅い所にある場合は、すぐさま摘出します。テンタとは「玉ヲトル道具」のこと。

弱モノニハ気付ヲ度々用テ気ヲトリタテ療治スベシ。

 患者さんが弱っている場合は気付を行います。「腹を納る法」でも気付が出てきましたが、ここでは気付の薬を二種類ほどご紹介しましょう。
 まずは蒲黄散、これは「金瘡並産婦気ヲ失ウヲ治スルコト神ノ如シ」と言われていました。これは蒲黄、人参、葛根、甘草、胡椒などを粉末にして服用させます。これは蒲黄が主薬です。大国主神が因幡の白兎を治療するために使ったことで知られていますね。止血の効果が高いので出血した時の気付向きです。
 それから茯神散、これは当帰、川芎、人参、白茯神、赤茯苓を煎じて使います。これは気血を補い、その巡りを促進するため、貧血や立ちくらみのような症状の時の気付に良いでしょう。
 次に抜薬について記載されています。

 矢根ヨロズ鉄針木竹肉ノ中ニ有を抜薬
○磁石(一匁)、鮫皮(内ノ白トリ用)、生栗、松茸、各七分
右細末ニシテ之塗、竹木ヲ抜ニハ磁石ヲ去リ、柿核霜加ヘテ水ニテネバネバトシテ付ル。

 面白い配合ですね。中国にもヨーロッパにもない処方かもしれません。主薬が磁石、つまりここでは朱砂です。殺菌消毒が目的です。また鮫、栗、松茸、これらは内服薬として使用されることがありますが、外用薬として使っている医学文献を、まだこれ以外見たことがありません。栗、松茸、柿と秋の味覚、おいしそうな薬剤です。きっと秋に開発された薬なのでしょう。ネバネバにするためだけでしょうか。いえ、目的は患部を腐らせること、そして弾丸を排出しやすくすることです。しかし、どの程度効果があるかは不明です。ちなみに栗粉は小麦粉の代用品にもなるので良い基材になりそうです。
 そう言えば天明八年(1788年)に「柿栗松茸」という落語が作られましたが、『外科手引艸』が記されたのは天明七年、その一年前です。何か関係有るのでしょうか…。

 なさそうですね。

○抜毒散 萬腫物ノ根ヲ抜ク、亦金創鉄砲之玉抜取ニ用ユ。秘伝ノ薬ナリ。
信石(五分)、赤六(五分)、雄黄(一匁)

 信石とは砒霜とも呼ばれ、三酸化二砒素 (As2O3 )のことです。昔から外用、特に患部が腐るような時、また内服にも使われてきました。砒素なので高い毒性がありますが、現在でも白血病や骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫にも使われています。雄黄とは(三)硫化砒素(AsS・As2S3)のこと。これも皮膚の化膿や傷、寄生虫症など解毒や虫下しに使われてきました。信石ほどではないにしろ、砒素なので毒性があります。
 赤六とはアカニシ(赤螺)の黒焼きのことです。現在ではサザエの代用品として知られています。

右三味細末ニシテ、腫物ニハナカミ四分バカリニフトサ一分ニシテ、ソクイニテ、口ニ入ル。又金創ニモ右ノ通ナリ。但シ、スグニ用ルコト。有ソクイニテヲシ合セ丸メテ用ユルコトモアリ。口伝ナリ。

 この三味を粉末にしてから練って長さ4cm、太さ1cmくらいの円柱状に形を整え、傷口に挿入します。傷を負ったらすぐに手当てすること。あるいは丸めて用いることもあります。口伝ナリとは、実際のこと、臨床の微妙なことは面と向かって伝えるということです。

つづく

(ムガク)

(これは2010-09-14から2010-09-28までのブログの修正版です。文字化けなどまだおかしな箇所がありましたらお教えください)



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