日記

ひとりごと

ネガティブ・ケイパビリティ(負の能力)

2022-08-10 03:21:53 | Weblog
痛みはどこから:焦らずに、目薬・日薬・口薬
朝日新聞 帚木蓬生さんの『リレーおぴにおん』から引用

(自分で筆写してみないと内容を把握・理解できないから)

病気と長く付き合わなくてはいけない患者さんと向き合う時、「治そう」という考えだけでは、どうにもなりません。私が逃げ出さずにやってこられたのは、約40年前に出合った「ネガティブ・ケイパビリティ(負の能力)」という言葉に支えられたからです。

どうにも答えの出ない事態に直面した時に性急に解決を求めず、不確実さや不思議さの中で宙づり状態でいることに耐えられる能力、を意味する言葉です。元は19世紀の英国の詩人キーツが、詩人が対象に深く入り込むのに必要な能力として使った言葉でした。

ネガティブ・ケイパビリティによる処方を、私は「目薬・日薬・口薬」と言います。「あなたの苦しみは私が見ています」という目薬、「なんとかしているうち、なんとかなる」という日薬、「めげないで」と声をかけ続ける口薬。患者さんは難しい状態にあっても、なんとかこれでやり過ごせます。

医師でなくても、調子の悪い家族や友達を心配することがるでしょう。「早く何とかしてあげなくては」と焦ると、治らない時にいらだってしまいます。人間の復元力は、早さとは異次元の所で発揮されますから、早さばかりが頭にあると、つまずきやすい。人は「自分の脳みそで考えて解決しないといけない」と凝り固まるところがありますが、それはせっかく晴れかけた空をかき乱すようなもので、成り行きに任せた方がいいこともあるのです。

心配による心の痛みは、ワクチン注射くらいに思ってはどうでしょうか。思い通りにならない物事に対する免疫ができ、ちょっと強くなったなと。痛みを嫌なものとして払いのけようとすると、そのたびに痛みがこたえます。

痛みというものは、心理的なものも大きい。訴えるたびに痛みを感じる回路が黒々と太くなるかのようです。痛みは「見せず、言わず、悟られず」、淡々と日常のこなしていた方が楽になることもります。

社会の問題に向き合う時も、ネガティブ・ケイパビリティは役立ちます。「みんなが言うから自分も」という付和雷同を慎み、待てよ、と踏みとどまる。極論に走らず真ん中を見通すための、知性と歴史観を持つことが大切だと思います。

帚木蓬生 作家・精神科医 1947年生まれ。「ネガティブ・ケイパビリティ」のほか、戦争や医療を主題にした著書多数。福岡県でメンタルクリニックを開業。



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