聴診の話はさらに続く・・・
心音の勉強では,コンスタント先生の教科書(と付録のCD)に大変お世話になった。教科書としては安い本ではなかったが,CDがとにかく素晴らしい。(むかしカセットで出ていたのと同じ?)1時間で主な心音の異常について,ほとんどが網羅されている。通勤の車の中で何度も何度も聴いた。
Essentials of Bedside Cardiology (Contemporary Cardiology) Jules Constant
Humana Press; 1版 (2002/11/19)
冒頭の方に取り上げられていた所見で,tic-tac rhythmというのがある。
心音のリズムは,通常収縮期よりも拡張期の方が若干長い。心拍数が早い胎児心音(embryocardia)は収縮期と拡張期がほぼ同じに聴こえる。時計の音のように聴こえるので,"tic-tac rhythm" と呼ばれる(ただし音のピッチで1音と2音は区別できる)。もし成人で心拍数が正常にも関わらず,この "tic-tac rhythm" がみられた場合には,重症の心筋障害の徴候だという。
このことをCDを聴いて知って,まもなくのことであった。
慢性腎炎でずっと外来で診ていた50代位女性患者さんがいた。大抵は血圧を測って,尿所見を確認して処方を出すだけで,いつもは心臓の聴診をしていなかった。あるとき「1-2ヶ月前から何となく坂道で息切れがするんです・・」と患者さんが訴えた。
「そうですか・・・一応,心臓の音を聴かせていただけますか?」と聴診器を当てた瞬間「おや?」と思った。これって覚えたばかりの "tic-tac rhythm" ではないか?と思ったのである。でも(まさかね?)と思いつつ,労作時の息切れがあるというし,すぐに心エコーをやってみたところ,なんとdiffuse hypokinesisがありDCM(拡張型心筋症)疑いとのことであった。(ホントにあるんだ~!)とびっくり仰天して,循環器内科の先生にコンサルトしたのであった。この経験は,聴診が本当に役に立つ,面白いと思える大きなきっかけになったのは事実である。