
やたら寒い年始となりましたが、
皆様如何お過ごしでしょうか。
遅ればせながら、新たな一年の挨拶とさせて頂きます。
今年もアーカムブックスをごひいきに!
私バイトMは昨年に引き続きアーカムメルマガのライターとし
て続投決定のようです。(実はいわゆる放し飼い状態?)
こうなったからには私も腰を据えてときにはピリリとスパイ
スの効いた批評を、ときには気楽に読める軽口等を、今年も
皆様の元へお運びするべく努力してまいりますので、何卒宜
しくお願いします!
というわけで、前回メルマガでちらりとお伝えした花沢健吾
氏のコミック『ルサンチマン』について今週は少々。
そもそもこのコミックに興味を惹かれた理由は
作品内容とは全く別の処にあるんです。
哲学を少々かじった方ならピンとくるのではないかと思われるのですが
タイトルの『ルサンチマン』という単語は、もともとは
近代哲学の言葉なんですよね。
ドイツの哲学者ニーチェの『道徳の系譜』と云うえらく難解な
哲学書があるんですが、確かその本でこの言葉が登場するんです。
一言で説明すると
「社会的に立場の弱い人々が強者を憎むこと」とでもなるの
でしょうか。
なんだか聞いててあんまりいい気分のしない言葉でもあります。
このコミックの舞台はいわゆる仮想体験のネットワークが実
現している近未来の日本。
経済状況は完全に二極化し、現実社会からはじき出された
人々は五感の全てを使ってゲームに没頭することでなんとか
生き長らえています。
主人公はまったくもってうだつの上がらないオッサンなんで
すが彼がひょんな事から参加したネットワークゲームで
現実では果たしえない恋愛を体験する、という物語。
それに加えて『ルサンチマン』なるタイトルですからかなり
あけすけですよね。
読み始め当初はシニカルで毒のある内容だと踏んでいたので
すがしかしこれが予想に反して悲しいのなんの。
主人公は仮想現実の女の子とセックスしたくてたまらないの
ですがその為には神経系統を刺激するためのボディ・スーツ
や、その他怪し気な拡張ツールが必要なんです。
しかしそれはお約束のように高価なものばかり。
彼はそれを手に入れるためになけなしの給料を片手に
奔走するわけです。その様がとてつもなく情け無く、胸が痛
くなります。
しかしそうまでして手に入れた非現実(アンリアル)の世界
ですら競争原理に支配されているのが皮肉なんです。
ゲーム内ですら主人公は絶えず強い者の脅迫に怯え、
弱い者を食い物にしようと近づいてくる貪欲な企業の誘惑に
晒されます。
彼に安住の地はないのです。
昨年のベストセラー『負け犬の遠吠え』はあくまで自嘲レベ
ル、冷や汗かきながらでも余裕を見せていられる程度のもの
ですが、『ルサンチマン』の世界ではそんなのメじゃありま
せん。
まあ現実社会においても既に持つものと持たざるものの差は
激しくなってますからね、
そりゃあと5年もこんな状況が万が一続けば、
社会は完全に二極化(経済的能力・性的パートナーの獲得能
力に限らず)するでしょう。
私は持たざるものに半分足をつっこんでいるので、
つい弱い方に肩入れしちゃうわけです。
しかし『ルサンチマン』が示唆するのは、
恐らく持たざる者たちの傷の舐め合いではありません。
現実にコミットし、克服し、カタルシスを得ることでしか、
持たざる者たちは救われ得ないのは解りきったことですから
ね。
近日発売の最終巻で、タイトルが意味するものが明らかにさ
れることを、私は期待しております
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今度本屋いこっかなあ。