稀代のストーリーテラー、島田虎之介による待望の新作が
遂に登場、早速GET致しましたバイトMでございます。
かなりの完成度に驚愕させられたこの方のデビュー作『ラストワルツ』以来、
いつ新作が出るのやらとじりじり待ちわびつつも、
べらぼうに密度の濃い作風(詳しくはアーカム書評)を維持するのは
至難の業に違いなく、いつ連載休止にならないとも限らない危うさに
アックス連載中の本作は極力読まない様にしてきたのですが。
・・・・・いやぁ、全くの杞憂でした。
相変わらず密度の濃い作風で期待を裏切りません。
『東京命日』
というタイトルから映画好きならピンとくると思われますが、
この作品は映画監督小津安二郎の命日、12月12日に彼を偲んで
各地から様々な人々が集う北鎌倉で幕を開けます。
ここから主要な登場人物の人生が時には街中ですれ違うことで、
時には肉体を交えることで交差するという、いわゆる
群像劇のスタイルになっています。
なんじゃそりゃ?と云う方は、
ロバート・アルトマンの『ショートカッツ』とか、『マグノリア』なんかを
思い出して頂ければイメージし易いのではないかと。
まず作者自身に紹介される1人目の主人公は
誰にも看取られぬまま孤独に死んでいった
同僚の死をきっかけにして、有名人の命日に集う人々の
ドキュメンタリーを撮り貯めている小林清。
彼は東京の某大手TV局は下請けプロダクションに入社したばかりの
アシスタントディレクター。
その彼のクライアントが、強引なやり口で業界内では嫌われ者の
カリスマCMディレクター安土四十六。彼もまた、強大過ぎる父親の権力の前で
本当の自分を押し隠したまま仕事に奔走しています。
そしてふとした拍子にそのカリスマCMディレクターとベッドを共にする事になる
人気ストリッパー、藪ケイト。彼女は死してなお幽霊となって追いかけてくる
ストーカーの陰に怯え、東京中を逃げ回っています。
他にも幼い頃両親と死別し、姉の手で育てられた調律師や、
師と仰ぐ人物の自殺から立ち直れないでいるCMプランナー等、
ありとあらゆる人生を背負った人物が入り乱れ、お互いの存在に気が付かぬまま
通り過ぎて行きます。
個人的には藪ケイト(恐らく人気度は彼女がダントツでしょう)が
ツボに来ました。
夜中に独りで小津安二郎の映画を観ながら号泣する姿が、
もー、可愛いいやら切ないやら(笑
「泣くな泣くな!」と頭ぐりぐりしてやりたくなります(変?
セクシーな厚い唇も瞼に焼き付いて離れません。
そしてもう1つ忘れてはならないキイツール?が
バニラエッセンスの小瓶。
この小瓶の存在が『東京命日』の大きな謎であり、同時に主軸でもあるのです。
沢山の愛すべき名もない人々がどのように出会い、お互いの人生を
どのように変えて行くのか。
ワクワクしながら読んで欲しい、珠玉の作品です。