ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「ジェネラル・ルージュの凱旋」

2007年11月10日 | 書籍関連
****************************
「救命救急センター速水部長は、医療代理店メディカル・アソシエイツと癒着している。VM社の心臓カテーテルの使用頻度を調べてみろ。ICUの花房師長は共犯だ。」

桜宮市に在る東城大学医学部付属病院。不定愁訴外来の万年講師にして、リスクマネジメント委員会の委員長も務める田口公平の元に一通の告発文書が送り付けられた。医大時代の同級生で在り、現在は救命救急センター部長の速水晃一が、特定業者と癒着しているという匿名の内部告発文書。病院長・高階から依頼を受けた田口は事実の調査に乗り出すが、倫理問題審査会(エシックス・コミティ)委員長・沼田による嫌味な介入や、ドジな新人看護師・姫宮と厚生労働省の”火喰い鳥”白鳥の登場により、事態は更に複雑化して行く。”ジェネラル・ルージュ”の異名を持つ速水の悲願、桜宮市へのドクター・ヘリ導入を目前にして速水は病院を追われてしまうのか?そして、更なる大惨事が桜宮市と病院を直撃する。
****************************

現役の医師でも在る海堂尊氏が、医療現場を舞台に描いた小説「ジェネラル・ルージュの凱旋」。処女作の「チーム・バチスタの栄光」及び第2作「ナイチンゲールの沈黙」と海堂氏の作品を読破して来たが、今回読破したのは第3作の「螺鈿迷宮」では無く第4作に当たるこの作品だった。「螺鈿迷宮」を後回しにしたのは、この作品が東城大学医学部付属病院を直接的な舞台にしていない、もっと言えば「田口&白鳥コンビ」の作品では無いからだ。ドラマ「3年B組金八先生」の全8シリーズ中、「桜中学」を舞台にしていない第3シリーズに一寸した違和感を覚えるのと同じ感覚で、田口&白鳥コンビが登場する「ジェネラル・ルージュの凱旋」を先に読む事に。

同級生からは”昼行灯”と称される田口とは異なり、若い頃から切れ者と見做されて来た速水。彼の異名”ジェネラル・ルージュ”は、「救命救急センターに運び込まれた生死の境を彷徨う患者達を、血塗れになって救う所から”血塗れ将軍”と付けられた。」と解している人間も居たが、実は15年前に発生した城東デパートでの大火災事故で彼が見せた一つの行動に端を発した異名だった。火事が夜半に発生した為、多くの患者が担ぎ込まれた東城大学医学部付属病院のICU病棟には新米医師の速水だけしか居らず、ペーペーの彼が全病棟のスタッフを指揮し、次々と迅速な処置を取って行く。しかし、流石の彼も病棟全体の指揮権を執ろうとした際には、緊張で顔面が真っ青になってしまった。その窮地を救ったのが若手の看護師・花房で、彼女は彼に1本のルージュ(口紅)を渡して言ったのだった。指揮官が青ざめていたら、弱気が部下に感染する。はったりでも良いから勇ましく。その為に口唇に真っ赤なルージュを。と。そのアドバイスに従って速水は唇に紅を塗り、リスク・ヘッジ(危険回避)をした事から”ジェネラル・ルージュ”の異名が。

同級生同士、上司と部下、現場の人間と事務方の人間、敵視する側と敵視される側等々、様々な人間関係が複雑に交錯している。次の展開を想像するも、これ程迄にその想像が外れる作品も珍しい。”良い意味で”期待を外してくれる。医療関係に詳しくない自分にとっては「『婦長』では無く、『師長』という言葉が現在使われている。」等色々勉強になったし、登場人物達が吐く言葉の中にグッと来る物も少なくなかった。

****************************
収益だって?救急医療でそんなもの、上がる訳が無いだう。事故は嵐の様に唐突に襲って来て、疾風の様に去って行く。在庫管理なんて出来る訳も無い。小児科も同じ。産婦人科も、死亡時医学検索も。現代の経済システム下では医療の根幹を支える部分が冷遇されている。俺達の仕事は、警察官や消防士と同じだ。トラブルが起こらなければ、単なる無駄飯食い。だからといって国家は警察官や消防士に利益を上げる事を要求するか?そんな彼等に税金という経済資源を配分する事を、国民は拒否するのか?

君には判らないだろう。救急現場は神でなければ裁けないのだ。そして、あの城東デパート火災の時、ワシはコイツの中に神を見てしまった。例え破壊神だとしても神は神。人間に逆らえる道理は無い。
****************************

医療現場の厳しい現実を冷静に描きつつ、海堂氏が根底に抱えているで在ろうロマンチックさが非常に上手く融合されている。終盤の人間模様には、ついホロリとさせられた。映像化してもかなり映える作品だと思う。*1処女作「チーム・バチスタの栄光」では星4つ、第2作「ナイチンゲールの沈黙」では星3つという総合評価を自分は下した。処女作の出来が素晴らしかっただけに第2作にはやや失望させられたのだが、「音楽に聞き手の心をグッと掴む出だしの後、やや心を弛緩させる部分が設けられ、そして一気に盛り上げるサビの分が在る。」のと同じく、「『処女作=出だし、第2作=弛緩、今回の第4作=サビ』という作者の深謀遠慮が在ったのでは?」と思ってしまう程、この作品の出来は良い。又、深謀遠慮と言えば、この作品が「ナイチンゲールの沈黙」で発生した事件と同時進行していた別の事態を描いているというのも、作者が只者では無いと感じさせる所。所々に第2作で目にした台詞やシーンが登場し、読み手をより「作者が誘う世界」へと誘導させるからだ。

どれだけ素晴らしいフルコースでも、料理が供される順番が滅茶苦茶だとその満足感もかなり減じられてしまうもの。海堂氏の作品を全く読まれていない方には「『チーム・バチスタの栄光』→『ナイチンゲールの沈黙』→『ジェネラル・ルージュの凱旋』」の順番で読まれる事を是非御薦めしたい。この順番で読めば登場人物達により感情移入出来ると思うし、その満足感も最高に到ると確信しているからだ。総合評価は満点の星5つ

*1 「チーム・バチスタの栄光」の映画化が決まったという。個人的には「田口=上川隆也氏、白鳥=柄本明氏」という配役を考えていたのだが、実際には「田口(?)=竹内結子さん、白鳥=阿部寛氏」となった。即ち小説では男性の田口を、映画では女性に置き換える設定(名前が田口のままかは不明。)となる。こういう設定変えはしない方が良いと思うし、変人・白鳥を阿部氏が演じるというのもドラマ「トリック」での上田次郎教授役のイメージを引き摺りそうでどうかなあという気がする。小説の中での白鳥のイメージは、どう考えても男前の風貌では無いし。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
« 「ALWAYS 続・三丁目... | トップ | 「ハッピーエンドにさよならを」 »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ハードカバーしかなかったが・・・ (iorin)
2008-04-28 03:13:41
いやーさすが星5つ。ナイチンゲールの沈黙とジュネラルルージュの凱旋読破しました。なんという人間臭さ、人間模様なんだ。やはりジュネラルルージュの凱旋の方が面白いですね。『チーム・バチスタの栄光』→『ナイチンゲールの沈黙』→『ジェネラル・ルージュの凱旋』の順番で読まれる事を是非御薦めしたいというのが分かりました。進行がつながってますね。速水さんかっこいいですね。田口、沼田、花房といった人物も個性があって忘れにくいですね。
 医療のドラマといえば「白い巨塔」をみていましたが、ジュネラルルージュの凱旋もドラマ化してほしい。もちろん監督の手腕によりますが、ドラマ化すればこっちのほうが面白いような・・・
 チーム・バチスタの栄光は映画も本もみていないのでまた後日みてみるかな。
返信する
>iorin様 (giants-55)
2008-04-28 03:53:40
書き込み有難う御座いました。

実際に読んで戴き、尚且つ内容に満足して戴けたという事で、紹介させて貰った甲斐が在りました。

シリーズ物の中には発表された順番通り読まなくても、その世界観が特に崩れない物も在りますが、このシリーズの場合は発表順(「螺鈿迷宮」は後回しにしても良い様に思いますが。)に読み進まれた方がより“海堂ワールド”に浸れる事と自分も思います。

ドラマ化したら面白そうですよね。映画は大分内容を端折っていたし、配役も個人的には疑問だったので、ドラマ化された際には原作に忠実な展開&配役を期待したい所です。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。