ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「舟を編む」

2012年05月04日 | 書籍関連

「一般の文学賞とは異なり、作家や文学者は選考に加わらず、『新刊を扱う書店(オンライン書店を含む。)の書店員』の投票によってノミネート作品及び受賞作が決定される。」という「本屋大賞」は、今から8年前の2004年に発足した。同賞に対して「発足当初は『本好きな書店員達が、“純粋に”面白い作品を選んだ。』という感じが在ったけれど、近年は『此の作品を売り込みたい。』という商業主義的な匂いを強く感じる様になった。」という批判を先達て目にしたが、確かにそう感じる作品も無い訳では無い。

 

今回読破した「舟を編む」(著者:三浦しをんさん)は本年度(第9回)の本屋大賞受賞作品だが、読む前には「果たして、受賞に足る作品かか?」という興味も在った。

 

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玄武書房に勤める馬締光也(まじめ・みつや)は営業部では変人として持て余されていたが、新しい辞書「大渡海(だいとかい)」編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉というを得て、彼等の人生が優しく編み上げられて行く。しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして「大渡海」は完成するのか?

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「舟を編む」というタイトルを最初に目にした時、どういう内容の作品なのか全く想像が付かなかった。

 

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「辞書は、言葉の海を渡る舟だ。」

 

ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮びあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう。」

 

「海を渡るにふさわしい舟を編む。」

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数多存在する「言葉」を「海」に喩え其の「海」を渡る為の「舟」が「辞書」なのだと。「舟を編む」には「言葉」のみならず、自らが従事している事柄に対して、強い探究心と深い愛情を持った人々が登場する。

 

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「先生が一番最初に手にした辞書はなんです。」

「祖父の遺品として譲り受けた、大槻文彦の『言海』ですね。多大な困難を乗り越え、大槻が一人で編纂した辞書だと知り、子どもごころにおおいに感銘を受けたものです。」

「感銘を受けつつ、ちょっと色っぽい言葉を引いてみたりもしたでしょう。」

「しませんよ、そんなこと。」

「そうですか?わたしはさっきも申したとおり、中学のころの『岩波国語辞典』が最初でしたが、シモがかった言葉を引きまくりましたよ。」

「しかし、あれはきわめて端整で上品な辞書だ。さぞかしがっかりしたことでしょうね。」

「そうそう。『ちんちん』を引いても、語釈には犬の芸と湯の沸く音についてしか載ってない。って、先生やっぱり引いたんじゃないですか。」

「ふっふっふっ。」

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辞書作りに従事する2人の会話に、思わずニヤッとしてしまった。自分も、全く同じ経験をしていたので。性に関して強い関心を示し出した頃、確か小学校4年の時だったと記憶しているが、「マスターベーション」という用語をエロ雑誌で目にして、「何の事だろう?」と興味を持った。誰かに聞く訳にもいかず、其処で頼ったのが国語辞書。「マスターベーション」を引いた所、「手淫自慰自涜オナニー。」と記されている。「手淫?自慰?自涜?オナニー?意味判んないなあ。」と更に調べる事になるのだが、「手淫」を引くと「『自慰』に同じ。」、「自慰」を引くと「『オナニー』に同じ。」等と堂々巡り。「オナニー」で漸と旧約聖書創世記』中に登場する人物オナンが、自らの陰茎を刺激して性的快楽を得た事から名付けられた。」と“具体的な説明”が記されていたが、「陰茎って?性的快楽って?」という新たな疑問。「陰茎」を引くと、どうやら「チンチン」を意味している事が判るのだけれど、「チンチンを刺激して性的な快楽を得るって、一体どうするんだ?」とサッパリ判らない。そんな間抜けな思い出が、2人の会話から蘇って来たのだ。

 

辞書作りに多大な労力と時間、そして費用が掛かるで在ろう事は理解していたが、内実は想像以上だった。「人々に信頼され、愛される辞書をきちんと作れば、会社の屋台骨は二十年は揺るがないと言われている。」という文章が「舟を編む」の中に記されていたけれど、其の一方で辞書を1冊作り上げるに必要な人的&金銭的負担は半端では無い様だ。「大渡海」は見出し語の数が約23万語を予定する中型国語辞典という設定で、其の完成迄に15年以上の月日が費やされ、3代の編集員が従事。「『辞書は出版社の誇りで在り、財産で在る。』と認識はしていても、“金食い虫”の辞書編纂作業を何とか縮小しようとする会社側。」と、「『何としても、素晴らしい辞書を作り上げたい。』とする編集員達。」との鬩ぎ合いは、何方の考えも理解出来るだけに、とても複雑。

 

「1つの用語に関して、何となく説明するのは簡単なれど、深く考えると実に難しい。」という事を、改めて感じた。「右」という用語を説明するのだって、「ペンやを使う手の方。」とか「心臓の無い方。」としてしまうと、「左利きの人を無視するのか?」とか「心臓が右側に在る人も居る。」という反論が出るだろうし。

 

1つの事柄に夢中になる人々の姿は、心に響く物が在る。此の作品には「業務に対して情熱を持たず、ちゃらく要領が良いだけ。」と感じてしまう男性も登場するが、実は「1つの事柄に夢中になれる人」に対して羨望嫉妬抱えていたりする。そういった複雑な思いを持ち乍ら、「1つの事柄に夢中になっている人」を裏方として一生懸命支えようとしている所、そしてそんな彼に向けられる「1つの事柄に夢中になっている人」の思いに、不覚にもグッと来てしまった。

 

総合評価は、星4つとする。


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