ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「植木等伝 『わかっちゃいるけど、やめられない!』」 Part2

2008年02月09日 | 書籍関連
初めてソロの歌を歌う事になった植木氏は、その曲「スーダラ節」(動画)の歌詞が余りにも下劣に感じられ、「歌いたくない。」と悩む。そして親鸞の生き方に強い影響を受けた父に相談するのだが、その遣り取りが又面白い。

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家に帰り、同居している徹誠に言った。「御父さん、えらい事になったよ。」「何だ?」「東芝レコードで、僕の歌をレコーディングする事になったんだ。」「在り難い話じゃないか。御前の歌をレコードにしてくれる人が居るって事は素晴らしい事だ。で、どんな歌だ?」恐る恐る植木は歌い始めた。「♪ちょいと一杯のつもりで飲んで、何時の間にやら梯子酒・・・。」「うん、それで?」「♪気が付きゃホームのベンチでごろ寝、これじゃ体に良いわきゃ無いよ。」「そりゃそうだ。」「♪判っちゃいるけど、止められない。あ、ほれ、スイスイ・・・。」「何?一寸待て。」徹誠は植木の歌を途中で遮った。「判っちゃいるけど止められない・・・。」徹誠は頭の中でそのフレーズをリフレインし、少し考えてから頷いた。「等、これはヒットするぞ。」「何がヒットするだよ、こんな歌。」植木には父親の反応が意外だった。いや、“判っちゃいるけど止められない。”って詞は素晴らしい。人間てものはな、皆判っちゃいるけど止められないものなんだ。医者にこれやっちゃいかん、先生にこれしちゃいかんと言われてもやりたくなるものなんだ。宗祖親鸞上人は90歳で亡くなったけど、亡くなる時に、“我が生涯は、判っちゃいるけど止められない人生で在った。”と言ったんだ。それが人間てものなんだよ。青島君て人は実に才能が在る。これは真理を突いた素晴らしい歌だ。ヒット間違い無しだから、自信を持って歌って来い!何が素晴らしい歌だよと植木は思ったが、蓋を開けてみれば父親の言う通りの大ヒット。この歌が口火となり、植木は、それ迄の日本には居なかったタイプのシンガー・コメディアンとしての才能を開花させて行く事になる。「僕はね、こんな歌がヒットする様じゃ日本は御仕舞いだって、本当にそう思っていたの。でも、ヒットしちゃった。困ったねぇ、これには。」当時を思い出して、植木は苦笑いした。
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当時一流企業の部長クラスの給料を貰っていたという、遣り手やり手の自動車セールスマンだった小松政夫氏が、全てを投げ出して植木氏の付き人になったは、人間・植木等の温かさを感じさせる。「俺の事を何と呼ぶ事にしようか?先生なんて呼んだら張り倒すよ。君は御父さんを早く亡くした様だから、私を父親と思えば良い。」と言われ、植木氏を「オヤジ」と呼ぶ様になった小松氏。何事に対しても真面目に一生懸命取り組む小松氏を植木氏は可愛がり、どうすれば巣立って行けるかを常に考えていたという。

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「何年か経ってね、一人立ちさせようと(所属事務所の社長の)渡邊晋に相談したの。“社長、僕の所に居る小松政夫って男を宜しく頼みます。”って。“モノになるか?”って訊くから“なります!”って答えたら、“御前がそう言うなら、良いよ。”って事になって、その場でナベプロ所属の芸人として独立させてやった訳。」この事を小松が知った時のエピソードは、良く知られている。走る車の中で、芸人として独立する筋道を付けてやった事を植木は小松に伝えた。嬉しさに感極まった小松は車を止め、ハンドルを握ったまま号泣した。それを、植木は無言で見ていた。一齣泣いて涙が涸れるのを待って、植木がボソリと言った、「別に急いじゃいないけど、そろそろ行くか。」植木が口にしたのはそれだけだった。小松は涙を拭い、小さく礼をして再び車を走らせたという。車の中の、二人の男の息遣いが聞こえて来る様だ。
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映画の一シーンの様な格好良さ。こういう粋な人間に自分もなりたいものだ。

幼少時、夢中になって見ていた人形劇「新八犬伝」では、8つのに導かれ、血を分けた8人の剣士が一つに集う物語だった。クレージーキャッツのメンバー7人が集う様は、「新八犬伝」に通じたを感じてしまう。「リーダーで在るハナ肇氏の人間的な魅力も然る事乍ら、メンバー全員が非常に“大人”だったというのもクレージーキャッツが長続きしている(4人のメンバーが既に亡くなっているが、クレージーキャッツは現在も解散していないのだ!)秘訣なのだなあ。」と、この本を読んでつくづく判った。「戦後間もない頃の様子」*1や「昭和芸能史」等々と興味深い記述も多く、あっと言う間に読破。

最後に、「今のテレビ番組に付いて」植木氏が語っている言葉を紹介したい。

で、俺も80なんだから、社会人としてなるほどという生き方が出来ているか、芸能界の中で何かしなくちゃいけないのか、何もやらずに死ぬのは一寸自分らしくないな、なんて色々考える訳。だって、今のテレビなんか酷いでしょ。知らない人がどんどん出て来るのは仕方ないけど、やっている事が酷い。実に下らないし、幼稚。俺達も随分下らない事遣っていたけど、こんなに酷くは無かったと思う訳。

*1 この辺の話は「三宅の爺さんみたいな教員ばかり選ばれたりして」という記事のコメント欄で、マヌケ様宛のレスにてチラッと触れている。

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1 コメント

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大学の大先輩 (破壊王子)
2008-02-09 10:35:07
十年以上まえ、TBSのトーク番組の司会をやってましたねえ。確か談志師匠がゲストで出た回は録画したんですが、まだ残っているだろうか?探してみますかね。



この方自身はショービズのど真ん中を歩んでこられた印象がありますが、今サブカルの重鎮となってる人々に与えた影響は凄く大きいのです。
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