ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「戦場のコックたち」

2016年04月10日 | 書籍関連

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1944年6月、ノルマンディー上陸作戦が僕等の初陣だった。特技兵コック)でも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ。新兵ティモシー・コールは、冷静沈着なリーダーのエドワード・グリーンバーグ、御調子者のディエゴ・オルテガ、調達の名人ライナス等と共に、度々、戦場や基地で奇妙な事件に遭遇する。不思議な謎を見事に解き明かすのは、普段は大人しいエドワードだった。

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2015週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」で3位、そして「このミステリーがすごい!2016年版【国内編】」で2位に選ばれた小説戦場のコックたち」(著者深緑野分さん)は、第二次世界大戦にで戦地に送り込まれた若者達を描いている。と書くと、映画プライベート・ライアン」の様に“一般の兵士達”の姿を想像される人も多いだろうが、「戦場のコックたち」というタイトルにも在る様に、描かれているのは“コックとしての仕事がメインの兵士達”というのが目新しい。

 

人間にとって“食べる”という事は“楽しみ”の1つだが、戦場というのは“楽しみ”とは掛け離れた、“苦しみ”や“悲しみ”が支配する場所。又、“落命”が当たり前の戦場に在って、コック達は“生存”のの食事を提供する役割。そういう相反する軸が在るからこそ、戦争不毛さが強く伝わって来る。

 

「不要となったパラシュートを、必死に掻き集める兵士の目的は?」、「600箱もの粉末卵が、一晩で忽然と消えた訳は?」、「オランダの民家で起きた夫婦怪死事件の真相とは?」等、戦場で発生した様々な謎。其れ等が解き明かされていった先には、ティモシー達が大きな決断を下さなければならない、或る重大な事実が待ち受けている。

 

多くの人間が、余りにも簡単に死んで行く戦場。非日常的な世界に動揺するティモシーだが、“仲間達”が次々に落命して行く中で、非日常的な世界が日常世界へと変わって行く。“戦争慣れ”とでも言うのだろうけれど、実に危ういだ。

 

又、頑なに守り続けて来た“正義”や“信念”といった物が、彼を戦場で戦わせて来たのだけれど、終戦末期~終戦を迎えて以降に直面する“見えなかった事実”により、正義等の概念が音を立てて崩れ去って行く。

 

謎解きの面で言えば、正直物足りなさを感じる。でも、時代や戦場の雰囲気がビンビン伝わって来る表現力の上手さ、そして読者へのメッセージ性等、デビューから5年目の作家の作品とは思えない、深みの在る内容だ。

 

総合評価は、星4つ


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2 コメント

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読んで頂ければ幸いです (アブダビ)
2016-12-09 04:49:06
雫石さんの「とつぜんブログ」の書評欄のコメントに、私の「20年をかけたインタビユー」が書いてあります。
硫黄島や沖縄で、我らの父祖と泥まみれの死闘を繰り返した元米兵へのインタビユーです。
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>アブダビ様 (giants-55)
2016-12-09 13:27:06
書き込み有難う御座いました。

雫石様のブログはちょこちょこ覗かせて貰っており、実はアブダビ様の書き込みも、以前拝読させて貰っていました。日本人の自分は概して“負けた側の視点”で物事を見たり論じたりしてしまい勝ちなので、非常に興味深い内容でした。特に心に残ったのは、以下の記述。

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毎日が戦闘で在ったた訳では無いが、戦闘は突然に始まり、何時始まるか判らない。そして今朝、一緒に飯を喰った仲間や、昨夜、一緒に仮眠した仲間が突然に死んだ。そういう日々を重ねると、或る種の諦念が生まれる。自分も仲間も敵も・・・「死んだ様な物」、
「幽霊みたいな物」と。生きて祖国に戻り、社会復帰する日が想像出来ない。此れを重ねる内に、敵を殺す事に容赦なくなる。疑問も持たなくなる。自分が生きて帰る事を想像出来ないから。
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戦場で“諦念”が生まれるプロセスは、敗戦へと向かっていた日本軍の場合理解出来ていたのだけれど、勝利へと向かっていた米軍の中でも存在していたという事に、一寸した驚きが在りました。でも、同じ人間なのですから、同様の環境に置かれれば、そうなるのは当たり前なんですよね・・・。
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