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漫画「はだしのゲン」と「ブラック・ジャック」未収録作品

2013-08-28 22:48:50 | 読書



 お盆過ぎに、大変、驚いたニュースがありました。
それは漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を、松江市の教育委員会が決定し、市内の小中学校で、ほとんどの学校がその要請に従っていたというニュースでした。

 あの漫画は原爆を実際に体験された中沢啓治さんが描いた貴重な作品で、核兵器の恐ろしさや戦争の狂気を考えるうえで、とても素晴らしい作品だと思っていたからです。

 しかも、原爆のおかげで戦争が終結したと肯定的している当事国のアメリカでも約2000の学校で教材として使われ、核兵器の恐ろしさを学んでいるとニュースで聞いたばかりだったからです。

 なんでも松江市の教育委員会は、この漫画の暴力や殺害など過激な描写が、トラウマになったり、面白おかしく捉える子供がいるのではという判断から、制約をかけたとか。


 それに対し、作品を海外に広めてきたグループの代表の浅妻南海江さんは、「大人も子供もゲンを通して被爆を追体験し、戦争の愚かさを学んできた。」と語り、「ゲンによって初めて多くの外国人が被爆の実相にふれている。米国からは「きのこ雲の下にどれだけの人がいたかを想像していなかった。」という感想が多く寄せられ、ロシアでは科学者でさえも「核兵器は恐ろしい。二度と使用してはならない」と書いた手紙が浅妻さんのもとに届けられたそうです。

この問題、どう発展するのか、私は固唾を呑んで、注目していたのですが、去る26日に、閉架措置を撤回するというニュースにほっとした私でした。

 私も、人の親として、「はだしのゲン」の過激な描写が気にならない訳ではないのですが、大切なのは作者の中沢啓治さんが、どんな思いで、この場面を描いたかという事を考えなければならないと思うのです。

 「はだしのゲン」は、原爆の恐ろしさや、戦争の狂気を描いたはずなのに、過激な描写だけを取り上げて、歪んだ解釈をされてしまったのです。

 
 でも、こうした事は往々にしてあるのかも知れません。

 作家の筒井康隆さんは、そういうつもりで書いた訳ではないのに、ある病気の人を傷つけたと訴えられ、その病気の団体からクレームをつけられ、断筆宣言した事がありました。

 栗本薫さんは「グイン・サーガ」を執筆していた時、ある障害を持った方に、クレームをつけられ、お詫びの文章を書いて、キャラクターを健常者に書き直した事がありました。

 病気や身体的な障害の人を扱うのは、なかなか難しいものがあるのでしょうね。

 
 実は、私が尊敬する手塚治虫先生の「ブラック・ジャック」にも、クレームをつけられて書き直したり、時代の変化とともに差別用語に抵触して、自主的に削除したエピソードなどがあるそうです。

 「ブラック・ジャック」のオリジナルの秋田書店の少年チャンピオン・コミックスは全25巻あるのですが、その後に出版された文庫版や愛蔵版は17巻とか、22巻くらいしかありません。
 その理由は、1巻あたりのページ数が増えたというのもありますが、版を重ねたり、出版社を変えるごとに、少しづつエピソードが削除されたからだそうです。


 では、どのエピソードが削除されたり、書きなおされたのでしょう?


 日付は、漫画週刊誌「少年チャンピオン」に掲載された時期を表しています。
 1974年5月 
 「血がとまらない」

 1974年6月
 「指」

 1974年8月
 「しずむ女」


 1974年8月
 「2人のジャン」


 1974年9月
 「植物人間」

 1975年1月
 「快楽の座」

 1975年6月
 「水頭症」

 1976年6月
 「最後に残る者」

 1976年9月
 「魔女裁判」

 1977年5月
 「壁」

 1978年4月
 「落下物」


 ほかにも、こんなエピソードがあるそうです。

 「金!金!金!」


 「不死鳥」

 「おとずれた思い出」

 「ふたりの修二」

 「パク船長」

 「ドラキュラに捧ぐ」

 「デカの心臓」

 「3度目の正直」

 「きみのミスだ!」

 「失われた青春」

 「信号」

 「キモダメシ」


 
 すごく多いですよね?


 私も調べて、びっくりしました。


 でも、最近、発売された「ブラック・ジャック大全集」は、そうした問題を克服し、これまでで、もっとも多くのエピソードを載せているらしいです。

 しかし、それでも、この3つのエピソードは、どうしても載せられなかったとか。


 「指」

 「植物人間」

 「快楽の座」


 そこで疑問に思ったのは、私は読んだ事がないのか?という事です。

 私は「ブラック・ジャック」を、初めて発表された少年チャンピオンで、リアルタイムで読んでるんです。

 だから、もしかしたら読んでるかも知れないのですが、恥ずかしながらタイトルだけでは読んだかどうか思い出せなかったのです。


 でも、ネットで調べてみたら、「指」と「植物人間」を読んでいたとわかったんです!


 しかも、「植物人間」は、フェリーの衝突事故で、母親の意識がなくなり、母親の脳が生きているのを信じたい息子が、ブラック・ジャックに手術を受けて、母親と心を通わせるというストーリーで、親子の愛情に涙ぐんだ思い出のあるエピソードだったのです。


 このエピソードはオリジナルの少年チャンピオン・コミックスの4巻に収録されていましたが、18版か19版を刷ったあたりで削除され、別のエピソードに変えられてしまったのです。

 このエピソードが、今なお収録されない理由は、手術の方法に問題があるからだそうですが、それ以外はとってもいいお話のように、私には思えるのです。




 「ブラック・ジャック」の未収録作品には、それなりの理由があるとは思いますが、創作する事の難しさと、作者の思いを正しく理解する事の大切さを、今回の「はだしのゲン」の問題で思わずにはいられませんでした。







   



 


 

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2 コメント

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う~ん (けん)
2013-09-14 23:44:33
はだしのゲン
私は広島県人なので、大変ショックです
小中学の図書室には当たり前に置いてあるし、何故閲覧制限がかかるのか、さっぱりわかりません。
けんさんへ (奈々)
2013-09-17 20:41:16
おそらく、一部分だけを取り上げて、全体を把握出来なかった読解力不足が原因だと思います。