ほんとうにほんとうのことだけ

ああでもないこうでもないとアタマやムネの裡をぽろぽろとこぼしたりこぼれ落ちたり。

「帰途」 田村隆一

2011-11-29 08:32:11 | Weblog
さっき、ラジオから聞こえてきた田村隆一の詩。

ぐっさりと突き刺さる感じ。
言葉を知らなければよかったなんて。
言葉がある、そのことによって捻じれ裂かれることがあるなんて。
そんなことは知ってはいるけれど、でも。

そして、言葉なんてという田村隆一自身が言葉で世界を構築して
こちらに差し出すというこのパラドクスに混乱は加速させられる。


言葉は、言葉は、言葉は何だろうか、と考えさせられます。






「帰途」

言葉なんかおぼえるんじゃなかった

言葉のない世界

意味が意味にならない世界に生きてたら

どんなによかったか



あなたが美しい言葉に復讐されても

そいつは ぼくとは無関係だ

きみが静かな意味に血を流したところで

そいつも無関係だ



あなたのやさしい眼のなかにある涙

きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦

ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら

ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう



あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか

きみの一滴の血に この世界の夕暮れの

ふるえるような夕焼けのひびきがあるか



言葉なんかおぼえるんじゃなかった

日本語とほのすこしの外国語をおぼえたおかげで

ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる

ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる

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