今、半分空の上にいるから

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殺人は眠り続ける 小説編その26

2014-12-25 23:59:45 | 殺人は眠り続ける(完結)

 2013年4月、横須賀。

 基地から何kmか離れた場所の方が旋回しやすいのか、真上の上空というのは、意外と航空機が飛んで来ません。
 ヘリコプターの垂直離着陸や戦闘機の発着の様子はよく見えました。

 公吉の体から、霧や薄い雲のようなものが漂い始めました。

 「少し視界を遮ろうか?」

 「まあいいかな。多分、地上からも衛星からも人間には全然見えないと思う。」

 そう言うと、禄郎は軍港を眺めました。港一体に、黒い煙の様に、少しずつ亡霊達が集まり始めたのが見えます。情報を得て、仲間を集めているかの様です。

 「あ、あれ。黒い亡霊だ。」

 「え?」

 禄郎が、足下の港を見ていた顔を上げて、公吉の指差す、海の方向を眺めました。

 「あっちの沖。なんで船もないのに亡霊がいんの?」

 黒い亡霊達が寄り添うように、海上を移動しています。

 「さあ?……海中に潜水艦か何かいるとか。」

 「自衛隊の?そうりゅうだか何だか?」

 「ここからじゃ分からん。米軍かも。」

 「あとさぁ、なんか上空にも黒い亡霊みたいなの飛んでんだけど。」

 「これは触れそう。」

 禄郎は、空中を飛び交っている黒い亡霊みたいなのに触って見ました。

 「テレビの電波みたいな感じ。双方向通信。」

 「テレビが黒い亡霊?どーなってんだ?ここ。」

 「さあ?あっ!また来た。」

 禄郎は空中に手を伸ばし、黒い亡霊みたいなのに触った手の平を見ました。

 「これは無線LANかな?WiーFi、デジタル通信かも。…しかし、何で人を殺しまくってるストーカーに限って、“殺し合え”って書き込むのかね。」

 「ハハハ。さっきはネットの回線だったんだ。」

 「俺達地上に降りて、直接ここの人間達に干渉は出来ないみたいだけど、黒い亡霊に対しては関係ないからな。」

 禄郎は夕空の水平線を眺めました。

 「すっかり日が落ちたな…。」


 夕日が沈み、辺りは夕暮れから、だんだん夜の暗闇に包まれ始めています。港一体が黒い亡霊達に覆われました。

 禄郎が手を差し出すと、布の袋のようなものが宙から現れました。袋の中から掴まれた細かい粒のようなものが、手の平からそのまま風に乗って宙に撒かれて行きました。
 黒い亡霊達に覆われた港全体に、けし粒がきらきら光ってます。
 実はこれ、麻薬に反応して光るんです。
 暗闇に包まれた空も、光るけし粒を纏った黒い亡霊達が、幾筋も飛び交っていました。


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