樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

梓(あずさ)の謎

2006年06月12日 | 木と言葉
本を出版することを「上梓(じょうし)」と言います。
「梓(あずさ)」という文字や言葉を聞いて、「梓みちよ」を思い浮かべた人は私と同年代、狩人が歌う「あずさ2号」を思い浮かべた人は少し若い人でしょう。この梓も木編ですから、木の名前です。

植物学では、梓ではなく「ミズメ」と呼びます。カバノキ科ですが、横一の皮目や葉っぱがサクラによく似ています。私も「栃の森」にあるミズメを、しばらくヤマザクラと思い込んでいました。

            
        (皮目が横一になるのはサクラかカバノキ)
                
    (葉の付け根がハート型に凹むのはカバノキ、サクラは凹まない)

材もヤマザクラによく似ているため、他のカバノキと一緒にして材木業界では「カバザクラ」と呼んでいます。ヤマザクラは良材で、家具のほか浮世絵の版木にも使われたそうです。

ここで、冒頭の出版の話に戻るのですが、私はヤマザクラによく似たミズメ(梓)を本の版木に使ったので「上梓」という言葉が生れた、と考えていました。
木に関するモンスターサイト「木の情報発信基地」にもそういう記事があります。
ところが、「上梓」という言葉が生れたのは中国。一方、ミズメ(梓)は日本固有種という矛盾に突き当たりました。

で、いろいろ調べた結果、「梓」という漢字は中国ではキササゲという木を意味し、そのキササゲは「百木の王」と呼ばれるほどの良材であることが判明しました。

      
      (トウキササゲの葉・京都府立植物園で撮影)

有用なキササゲは多分、版木にも使われたのでしょう。そして、キササゲ=版木という意味になったのだと思われます。漢和辞典の「梓」には、木の名前のほかに、はっきり「版木」と書いてあります。
キササゲは日本には自生しませんから、「梓」という漢字を(どういう訳か)ミズメに当てはめたのです。

「梓みちよ」からここまで引っ張るか? 込み入った話で申し訳ないです。
コメント (2)
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