樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

森の春

2008年04月30日 | 樹木
週末、5ヶ月ぶりに「栃の森」に行ってきました。
雪でアクセスできない冬と鳥が少ない夏を除いて毎月1回、土曜日の夜にゲート前でキャンプし、そのまま車泊して翌朝早くから森に入ります。恥ずかしながら40代後半になって教習所に通い、フルフラットになる車を買ったのもこのため。もう12年間通っています。
数年前には入林が制限されましたが、私たちは野鳥の調査を継続するために許可を得ました。

       
            (葉と白い花が同時に展開するヤマザクラ)
       
          (キンキマメザクラは名前の通り樹も花もミニサイズ)

街はすでに初夏なのに、ここは春爛漫。ソメイヨシノのような派手さこそないものの、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、マメザクラなどの自生種があちこちでひっそりと花を咲かせていました。コブシやモクレンの仲間、タムシバも白い花をたくさんつけています。

           

12年間同じコースを歩いているのに、初めて発見する花もあります。今回はヒサカキ。林道の脇に小さな葉をたくさんつけた小さな樹があるので、よく見たら小さな白い花が咲いていました。庭木としてはよく見かけますが、自生のヒサカキは初めて。今まで見落としていたんですね。

       
       
花を開く樹もあれば、葉を開く樹もあります。「栃の森」の主、トチノキもようやく目を覚ましたようで、ネバネバした芽鱗(がりん)を破って葉を広げようとしています。

       

生まれたばかりのブナの葉にはまだ産毛が残っています。もう2週間もすれば、独特の軟らかい葉が樹木全体を覆うでしょう。

       

「木の葉を描いてください」と言われたら多くの人はこんな絵を描くだろうな、と思えるのがクマシデの葉。たくさんの葉脈が平行に走っているのが特徴です。そのクマシデの葉も春の光を浴びて、少年のように輝いていました。

       

なぜか鳥は例年よりも少なかった。乾燥が進んで笹がなくなったせいか、ウグイスの声もほとんど聴こえません。それでも、オオルリクロツグミなど夏鳥が元気な姿を見せてくれましたし、早くもアカショウビンが特徴のある鳴き声を聴かせてくれました。
来月は緑も濃くなって、花も野鳥もさらに多彩になるはずです。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

総欅造りの仏殿

2008年04月28日 | 木造建築
今までにも何度かご紹介したように、神社仏閣の建材はほとんどがヒノキです。ところが、京都の泉涌寺(せんにゅうじ)には総欅(ケヤキ)造りという珍しいお堂があります。
このお寺は皇室の菩提所であるために別名「御寺(みてら)」と呼ばれていますが、1668年に徳川家綱が再建した仏殿はほとんどの建材がケヤキだそうです。

       
           (総欅造りの泉涌寺仏殿。国の重要文化財)

古来ヒノキが多用されたのは、強度や美しさもありますが、割裂性に優れていたから。室町時代以前は縦引きノコがなかったので、丸太を斧で割り、凹凸部分を鉋で削って板に仕上げました。ヒノキなど針葉樹は割裂性がいいので板にしやすいのですが、広葉樹は割裂性が悪く、特にケヤキは硬くてなかなか真っ直ぐに割れません。使いたくても使えなかったのです。

             
       (柱をよく見ると、ケヤキならではの力強い木目があります)

ケヤキなど広葉樹が建材に使われるようになるのは、2人がかりで引く「大鋸(おが)」と呼ばれる縦引きノコが登場して以降。ちなみに、「おがくず」はこの道具に由来します。
室町時代以降は巨大建築にもケヤキが使われるようになり、特に戦国時代のお城にはケヤキが多用されています。神社でも、例えば永平寺などは修理や再建に必要な木材を確保するために寺有林にケヤキを植林しているそうです。
道具の発達によって、建材に使用される樹種も大きく変化するわけですね。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

不思議な街路樹

2008年04月25日 | 街路樹・庭木
まず、写真をご覧ください。

       

街路樹のプラタナスが歩道の鉄柵を飲み込んでいます。不思議な光景ですが、見ようによってはグロテスクですね。
場所は京都市の九条通り。この周辺にはこんなプラタナスが4本あります。
どういう経過でこんな姿になるのか、樹木医の本を参考にして推測しました。①鉄柵に接触してからも幹が成長し続ける → ②鉄柵に締め付けられて葉から運ばれてきた栄養分が下まで届かなくなり、柵の上の部分にたまる → ③その部分だけが異常に肥大し、柵を乗り越えて下の部分とつながる、という経過のようです。

       
          (もう1本は鉄柵を上から下まで飲み込んでいます)

時々、支柱に幹を締め付けられてその部分だけ太くなった植木を目にすることがありますが、このプラタナスのようにそれを飲み込んで成長しているのは初めてです。たくましいというか、恐ろしいというか、樹木の底知れないパワーを感じます。

             

でも、この鉄柵を改修したり撤去するときはどうするんでしょう?プラタナスは伐られるんでしょうか。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

水車

2008年04月23日 | 木の材
毎年、冬の間に一度は琵琶湖にカモを見に出かけますが、今年は2ヶ月ほど前に滋賀県中部の能登川町(現・東近江市)まで足を伸ばしました。
ここには水車公園があって、その前に広がる伊庭内湖(いばないこ)という小さな湖にカモがプカプカ浮いています。でも、今日はカモではなく水車のお話。

       
         (直径13mの関西一の大水車。実用ではなく観光用)

昭和17年の調査では日本に78,500基もあった水車が、40年後の昭和57年には496基に減ったそうです。能登川町にも昔は40基ほどあったものの、昭和46年に姿を消したので、ふるさと創生事業で水車公園として復元しました。

       
            (半実用の水車。中では精米しています)

水車はもちろん木製。一般的に、水の流れを受ける部分(水輪)にはスギなど耐水性のある針葉樹が使われました。また、最も磨耗の激しい心棒にはケヤキが使われましたが、大きなケヤキは高価なので、昔の人々は磨り減る部分だけ取り替えるようにカシの巻き板を使うという工夫をしたようです。「菊座」と呼ばれる歯車にもケヤキ、カシ、クリなどの硬い木が使われました。

       
             (菊座と呼ばれる歯車。これはケヤキ製)

この水車公園には、観光目的の大水車とは別に、希望者が精米できる半実用の水車があります。精米には約60時間かかるそうですが、精米機のように熱が発生せず、胚芽も傷つかないので、おいしくて高品質の白米になるそうです。

       

ゴトン…、ゴトン…と杵が超スローテンポで上下しながら、石臼の中にある玄米をついています。水車小屋の中には、眠くなるくらいゆったりとした時間が流れていました。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

赤い若葉

2008年04月21日 | 樹木
淡い緑色の若葉が日に日に濃くなる季節。山も徐々に緑色に染まりつつあります。そんな中、赤い若葉を広げる樹もあります。

       
            (若葉の赤に染まったレッドロビンの生垣)

上の写真は、レッドロビンと呼ばれる園芸品種。カナメモチとオオカナメモチのハイブリッドで、みなさんもよく目にされるように生垣に多用されています。
花ではないのであまり注目されませんが、赤と緑のクリスマスカラーで彩られた、ある意味では花以上に美しい葉です。日本で見られる樹で、こんなにカラフルな葉は他に知りません。この赤い葉は夏を過ぎるとほとんどが緑色に変わります。

       
       (クリスマスシーズンにこうなれば、もっと注目されるのに…)

赤い若葉はレッドロビンだけではなく、クスノキも同じ。常緑樹ですが、今の時期に赤い若葉が展葉します。関西では公園樹や街路樹によく使われているので、樹冠部を見てやってください。ぼんやりと赤茶色に染まっています。

       
                (クスノキの若葉も赤)

落葉樹の中にも赤い若葉を出す樹があり、アカメガシワは名前のとおり赤い新芽を出します。若葉は緑色だけじゃないんですね。

       
                 (アカメガシワの若葉)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

紅葉と桜

2008年04月18日 | 樹木
京都市には地下鉄が2路線あって、その一つ東西線の東の起点は「六地蔵」駅。このあたりはちょうど宇治市と京都市の境目で、六地蔵という地名も京都市ではなく宇治市のもの。
そういう場所にある駅だからでしょう、地上の広場には宇治市の木のイロハモミジと京都市の木のサトザクラが仲良く植樹してあります。

       
      (左が京都市の木・サトザクラ、右が宇治市の木・イロハモミジ)

サトザクラというのは樹種名ではなく、ヤマザクラなど山野に自生する桜に対して、園芸用に品種改良されたた桜全般を意味します。代表的な品種がソメイヨシノ。
私は園芸品種にはほとんど興味がないので、このサトザクラの種類は識別できませんが、ソメイヨシノより大きめの白い花とピンクの花が咲いていました。

       
           (名残りの花が咲いていました。4月15日撮影)

一方、宇治市のシンボルツリー、イロハモミジは普通は紅葉シーズンにしか注目されませんが、ちょうど今かわいい花を咲かせています。写真で赤紫色に見えるのは葯で、その中にミリ単位の小さい白い花をつけています。桜が散る頃、イロハモミジは人目につくことなく密かに開花するわけです。

       
       (イロハモミジの花。赤紫の葯の中に白い花が咲いています)

地下鉄はもちろん市営バスもない宇治市民としては、京都市営の地下鉄を利用させていただくのはありがたいことです。私も時々、六地蔵駅から京都市内に出かけます。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

曙杉

2008年04月16日 | 樹木
冬の間葉を落としている樹はたくさんありますが、その中で特にシルエットが美しいのはケヤキとメタセコイヤでしょう。
ケヤキは街路樹によく使われているのでご存知でしょう。図鑑には「箒を逆さまに立てたような」とか「傘の形」と書いてありますが、要するに逆三角形。
メタセコイヤは日本の自生種ではありませんが、公園などによく植えてあります。こちらはケヤキとは逆に二等辺三角形というか、きれいな円錐形です。和名はアケボノスギ。針葉樹ですが落葉します。

(左はケヤキ、右はメタセコイヤ)

メタセコイヤは、1941年に日本の学者が化石で発見して認知された樹で、当時は100万年前に姿を消したと思われていました。ところが1948年に中国の学者が四川省で現存する個体を発見し、「生きた化石」として世界中に注目されました。
その後、日本にも移入されて皇居に苗木が植えらました。昭和天皇はこの樹が大層気に入ったようで、昭和62年の歌会始(お題は「木」)では、「わが国のたちなほり来し年々に あけぼのすぎの木はのびにけり」という歌を詠んでいます。また、『皇居の植物』という本の序言にもアケボノスギについて言及しています。

       
       
     (森林総合研究所関西支社には立派なメタセコイヤの並木があります)

世界一ノッポの木「センペルセコイヤ」も同じ仲間ですが、「セコイア」というのはアメリカ先住民(チェロキー族)の賢人の名前だそうです。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界で最も危険なアート

2008年04月14日 | 木と作家
和歌山まで木祭りを見に行ったもう一つの目的は、チェンソーアート。ご存知と思いますが、木材を伐採する時に使うチェンソーで彫る彫刻です。以前から実演を観たいと思っていました。
和歌山県在住のチェンソーアーティストで2005年の世界チャンピオン・城所啓二さんが毎年この木祭りに参加されているらしく、拝殿には過去の作品が奉納されていました。

       

実演スペースは木っ端などが飛び散らないようにネットで囲ってあり、直径80cm×高さ1.2mくらいのスギの丸太と、大きさの異なるチェンソーが計6台置いてあります。
城所さんは万一に備えて足には防護カバー、鉄板入りのシューズ、騒音から耳を守るイヤーパッド、オガクズなどから目を守るアイマスク、手の振動を抑える専用グローブを装着して登場。チェンソーアートが「世界で最も危険なアート」と呼ばれているのが納得できます。

       

最前列で観ていましたが、木っ端は飛んでこないものの、風向きによってはマスクが必要なくらいオガクズが飛んできます。
私も昔は絵を描いたり、版画を彫ったことがあるので想像できますが、テクニック以前にモチーフが頭の中にしっかり描けていないと彫れないでしょう。立体ですから余計にイメージの保ち方が難しいと思います。

       

約1時間で来年の干支の牛が完成。サインも小さいチェンソーで刻んでいました。いやー、スゴイです。完成後に近くでじっくり眺めましたが、牛の鼻の穴のような細かい部分もノミで彫ったように仕上がっていました。さすが、世界チャンピオン。

             
           (実演後、拝殿に奉納された牛の彫刻)

あまり知られていませんが、日本のチェンソーアートはレベルが高いようで、先日オーストラリアで開かれた世界大会では北海道のアーティスト・木霊光(こだまひかる)さんが優勝しました。城所さんに続いて二人目の日本人チャンピオンです。

             
  (城所さんが奉納した「龍神」。ウロコ1枚1枚もチェンソーで彫ってあります)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いちご電車

2008年04月11日 | 木と乗物
前回ご紹介した伊太祁曽(いたきそ)神社には、木に関するいろんなモニュメントがありました。下の写真は、拝殿に置いてある木の股くぐり。
大国主命(おおくにぬしのみこと)がライバルの神様に追われたとき、この木の股をくぐって難を逃れたという神話から、厄除けの信仰が生まれたそうです。股というよりも洞ですが、この日もお年寄や子供たちがくぐっていました。樹種はスギのようです。

             

この神社を訪れるために乗った貴志川線は、和歌山から貴志までわずか14駅しかないローカル電車ですが、関西ではいろいろ話題になっています。まず、終点の貴志駅の駅長は猫のタマ。今ではすっかり有名になり、この日も「駅長のタマを見に行く」というお孫さんとおじいちゃんが私の右隣に座っていました。
猫の駅長の由来がまたおもしろい。「先日貴志駅で、三毛猫さんと目が合って、何か手伝うかと声掛けしましたら、何でも手伝うというので、いずれ三毛猫の駅長さんが登場すると思います」(開業時の社長のコメント。HPより)。

       

また、沿線がいちごの産地であることから「いちご電車」を走らせています。車体もシートもいちご柄ですが、私は別の意味で気に入りました。まず床が木製。車内には木のベンチやキャビネットが設けてあり、吊り輪も日除けも木製です。

       
        (木のベンチの向かいには木のキャビネットもあります)

これについても社長が説明しています。「和歌山県、和歌山市は紀州、すなわち木の国ですから、床材を楢の木のむく材を使用するなど、つり革、ベンチシートや家具など、およそ今まであまり木を使わなかったところまで、ふんだんに木を使って、思い切ったリニューアルをすすめ、木の神様の国にふさわしい趣向にいたしました」。私のような木のファンには、とてもうれしい配慮です。

       
        (吊り輪は合板製、日除けも木製品。シートはいちご柄)

左隣のおばあちゃんが「いつもはこんな大勢乗っとらへん、1両に3人か4人や」と教えてくれました。のどかな田園風景の中をウッディな電車に揺られ、両隣のお年寄とお話しながらほのぼのとした時間が過ごせました。
貴志川線のサイトはこちら
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

木祭り

2008年04月09日 | 木と宗教
和歌山県まで足を伸ばして「木祭り」を見てきました。
JR和歌山駅からローカル線に20分ほど乗ると、木の神様・五十猛命(いたけるのみこと)を祀った伊太祁曽(いたきそ)神社があります。この神様は天から木の種を持って降りてきて、日本中に木を植えて回った後、この地に鎮まったそうです。
木の神様がいらっしゃる国だから「木の国」、それを雅字で表記して「紀伊国」になったとか。吉野杉を紀の川(これも元は木の川)で運び、和歌山港から京都や大阪、酒所の灘に供給したので「木の国」と呼ばれた、という説もあります。

       
         (一の鳥居。幟が祭りの雰囲気を盛り上げています)

ある人にこの神社のことを教えていただき、調べてみると当ブログの氏神様みたいな神社なので、「これは行くしかない」と思って木祭りの日(毎年4月第一日曜)に出かけました。
迎えてくれたのは立派な木の鳥居。多くの神社が石の鳥居を据える中、一の鳥居、二の鳥居とも木製です。また、境内の樹にはちゃんと樹種名を書いた札がかけてあり、木へのこだわりが見て取れました。

       
          (ご神木のスギ。2代目が育成されています)

ご神木はスギ。昭和37年の落雷で炎上したため、現在は焼け残った幹だけが立っていますが、案内板によると樹齢1000年だったそうです。
和歌山県の木材組合や林業関係者による神事と記念植樹、餅まき、アトラクションのチェンソーアート、出店などがあり、地元の方々を中心に参拝客はおよそ500人。ちょうど桜も満開で、あちこちでお花見弁当を広げているグループもあります。

       

私もお餅をキャッチしたり、木工品の出店を冷やかしたり、紀州産の柑橘類を買ったりしながら氏神様のお祭りを楽しみました。もちろん、「このブログがいつまでも続けられますように」と祈願もしてきました。
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする