「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

『恋する天才科学者』

2008年01月19日 | Science
『恋する天才科学者』(内田麻理香・著、講談社)
  『カソウケンへようこそ』から約3年、内田麻理香さんの新著だ。最近はテレビ番組(「おもいっきりイイTV」や「世界で一番受けたい授業」)にも出演されて、知名度もますます上がってきているように思う。しかし、料理の科学的ウラワザ紹介のような「カソウケン」的なネタだけが内田さんの領分ではない。専門的な科学を一般の人たちにも楽しく伝えたいという思いが、内田さんのもっとも意図するところだ。この本は『カソウケンへようこそ』とは毛色が異なるが、同じ思いがタイトルの「恋する」に込められているように思う。この恋とは、科学者としての「科学」への恋、「人」に恋した科学者の人間的な側面、そして「著者自身」が恋に落ちた科学者たちへの憧れだという。
  一読して、科学者の人間的な側面がとくによく描かれているように感じた。世間の人たちの目からは、科学者は聖人君子に見えたり、逆に変人の代表のように映ったりするものだ。科学者も人間、聖人君子などではなく、向い三軒両隣に住んでいるちょっとヘンな人たちの延長線上(かなり先のほうの延長線上かもしれないが)のヘンな人にすぎない。本書には、科学者のそんなヘンなエピソードが満載されている。とはいえ、そのヘンさの度合いは、ふつうの人(自分がふつうだと思っている人)から見ると相当トンでいるので、自分のなかの科学者像が揺さぶられたり、壊されてしまうかもしれない。例えば、舌を出したオチャメな写真やボサボサ頭のアインシュタインしか知らない人にとっては、その人物像が崩れ落ちていくにちがいない。中学生の頃からアインシュタインのファンで、彼のプライベートな部分もある程度知っていた自分でさえ、かなりの衝撃を受けた。アインシュタインの相対性理論と並んで、現代物理学のキーワードとしてシュレディンガー方程式がよく挙げられる。そのシュレディンガー方程式は、シュレディンガーのあるインスピレーションによって生まれたという。その裏話には衝撃とともに“笑撃”を受けた。
  しかし、この本はたんなる科学者のハチャメチャぶりや色恋沙汰の暴露本ではない。「天才も人の子」であり、一見難解な科学も人の子である人間が作り出したものであることがよくわかる。内田さんの科学者や科学そのものへの変わらぬ恋心(愛情)が感じられる。科学者評価の二次元チャートやイケメン度なども女性ならではの遊び心があふれていて楽しい。内田さんの最愛の恋人であるファインマンだけはほとんど別格扱いだが、その思い入れもほほえましい。本書で「ダメ要素こそ男の魅力なり!」と男性科学者たちを斬った内田さんも相当ヘンな人だと思うが、女性科学者に対してはどんな太刀を振るうのだろうか。ふとそんなことも思った。
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