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第20回:EPDMとは(・ω・)?

2021-01-11 13:32:10 | 技術っぽいこと
ゴム技術の話、第20回目は「EPDM」についてです。
私がゴム関係の仕事をやっていたときに一番よく使っていたものになります。

EPDMとはエチレン、プロピレン、ジエン化合物の3種モノマー共重合体ポリマーです。
主な特徴としては、
・ポリマー主鎖は飽和結合⇒耐オゾン性が良い
・耐水性が良い
・耐熱性と耐寒性もそこそこ良い
・耐油性が悪い
・加硫が遅い
といった感じでしょうか。
自動車関係に使用されるパーツ(ゴムホース、グロメット、ドアシール等)によく使われます。

重合時の触媒に関しては、バナジウム触媒が使われるのが一般的ですが、メタロセン触媒を使って製造している会社もあります。
ジエン化合物はENB(エチリデンノルボルネン)が用いられるのが一般的ですが、グレードによってはDCPD(ジシクロペンタジエン)や、最近ではVNB(ビニルノルボルネン)というENBの異性体が使われたグレードも出てきています。
また、ジエン成分を導入していないポリマーはEPMと呼ばれます。
ジエン成分は硫黄で加硫ができるようにするために導入されているので、ジエン成分のないEPMは有機過酸化物(PO)でしか架橋できません。


……と、ここまでがよく一般的に書かれていることが多い内容ですが、これだけでは面白くないので以降は少しマイナーなことを書いてみます。

まずジエン成分ですが、ENB、DCPD、VNBの使い分けです。
EPDMは硫黄またはPOで架橋させますが、そのときの架橋のしやすさはジエン成分で変わってきます。
架橋に関わるジエン部位はENBが3級アルケン、DCPDが2級アルケン、VNBが1級アルケンとなっていますが、それぞれに対して硫黄+促進剤とPOを用いる場合ではジエンにラジカルが発生する際の反応機構の違いから反応性が変わってきます。
・硫黄の場合⇒ENB>DCPD>VNB
・POの場合 ⇒VNB>DCPD>ENB

と言っても、世の中に出回っているEPDMの9割くらいはENBが用いられているので、まぁそんなに気にしなくてもいいところではあるのですが。
以前私がVNB-EPDMを触った際に、同配合で架橋系だけ硫黄+促進剤 or POに変えてキュラストカーブ(加硫曲線)を見たことがありますが、PO架橋した方が硫黄架橋と比較して圧倒的に加硫速度が速く、トルクも高い結果となりました。

次にEPDM製造時の重合触媒についてですが、上記にもあるようにバナジウム触媒 or メタロセン触媒の2択がほとんどです。
具体的に企業で挙げれば、住友化学、JSR、三井化学、クムホ、ダウケミカルetc...とEPDMの製造をやっているところなら大抵はバナジウム触媒を使ったグレードがあります。
もう一つのメタロセン触媒に関しては、主に三井化学が使っているイメージで、他ではあまり見ません。
三井化学のEPDMのカタログを見たとき、品番の後ろに“M”がついているグレードはメタロセン触媒が使われたものです。
では触媒の違いで何が変わるのか、という話ですが、基本的には重合時のポリマー鎖の成長の仕方が変わり、これによって物性や加工性が変わってきます。
大雑把に書くと
・バナジウム触媒     : 主鎖に短鎖の分岐がつきやすい⇒加工性がよく、物性はそこそこ
・メタロセン触媒     : 主鎖に分岐がつきにくい   ⇒加工性が若干落ちるが、物性が出やすくなる
・先進的分子触媒(AMC): 主鎖に長鎖の分岐がつきやすい⇒加工性と物性をバランスよく両立

唐突に先進的分子触媒(AMC, Advanced Molecular Catalyst)と書きましたが、これはダウケミカルが独自開発した触媒で、以前売り込みをかけられまた覚えがあります。
ダウケミカルのEPDM(NORDEL)は原料をシェールガスから製造しているから比較的安価ですよ、と言われたりしましたが、個人的にはあまり尖ったインデックスのポリマーがなかった記憶があったので「こういうのもやってるんだな」という印象を受けた記憶があります。(結局ほとんど触りませんでしたが…)

次は油展の話です。
EPDMには油展グレードというものがあります。
これはポリマーを製造する際、ポリマーの分子量が高いと最終製品化できないため、意図的にオイルを添加して見かけのムーニー粘度を低下させて製造されるポリマーです。
この油展ポリマーの厄介なところは、配合中に無条件で油展オイルが入ってしまう点です。
例えば油展量が50phrの場合、このポリマーで配合を立てる場合は150phrで設定しないと、100phr分のポリマーが使われることにはなりません。
私は配合開発をやり始めた当初「油展ポリマーを使えば外添でオイルを入れなくてもいいし楽だ」と思っていました。
しかし、これはかなり感覚的なところがありますが、配合中には同じ量のパラフィン系オイルが入っていたとしても、なんか外添でオイルを入れたときと加工性や物性、耐熱性なんかが違う感じがするんですね。外添より悪い感じがあるというか……
やはり配合用に入っているオイルではないので、あまり油展オイルを過信しすぎるのは良くないと個人的には思っています。

次回はEPDMの配合的なところでも書いてみようかと思います。

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