エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

ガス会社の対応

2011-08-30 00:11:18 | Weblog
ガス会社は、IPP(Independent Power Producerの略で、独立系発電事業のこと。卸電力事業とも呼ばれる)、PPS(Power Producer Supplierの略で、電気の小売りを行う特定規模電気事業者のこと)などの新しい電力事業のモデルに積極的に参入してきました。しかし、期待の高かったPPSのシェアが1.5%にとどまるなど、1995年以来の電力自由化の下で勢力を拡大するには至っていません。また、ガス会社は燃料電池の開発も積極的に行ってきており、09年度より家庭用燃料電池「エネファーム」の販売に力を入れていますが、家庭用燃料電池の開発をリードしてきた荏原バラードが解散するなど、現状では、燃料電池市場の立ち上げに苦戦しているのが実情です。
ガス会社としては、当面は、太陽電池と燃料電池の組合せによる「ダブル発電」により家庭に攻勢をかけ、家庭用の固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発に弾みをつける戦略です。SOFCは燃料電池の中では最も効率の良い方式で、従来型の燃料電池に比して部品点数も約半分でよいことからコストを抑えることができます。集合住宅にも置けることから、早ければ11年度にも商用化される可能性があります。
このような状況の下で、スマートグリッドでイニシアティブをとることは、ガス会社にとって至上命題になりつつあります。ガス会社が最終的に目指しているのは、需要形態・変動パターンにあわせたガス、電力、熱、水素の供給のベストミックスを実現する「スマートエネルギーネットワーク」の構築です。このモデルはEUにあります。EUでは、04年2月にCHP指令(指令2004/8/EC)が採択され、さまざまな実証事業が展開されています。ここでは、出力等が不安定な再生可能エネルギーを天然ガスコジェネレーション、燃料電池等で補完することにより、低コストで変動安定化が可能となります。さらに、東京ガスは50年にCO2排出80%減という長期目標の達成に向けて、水素社会の実現に向けた研究開発も進めています。
この中長期的な構想の下、ガス会社が取り組んでいるのは、太陽光、風力、バイオマスなど分散型の新エネルギーと天然ガスのコジェネレーション(熱電併給)システムを組合せた地域電力ネットワークの構築です。ここでは、発電量が不安定で系統電力ネットワークにつなげにくい太陽光発電については、電気とともに太陽光から温熱や冷熱を取り出し、電力と熱エネルギーを活用して効率を高めるコージェネシステムと組合せたり、蓄電池を利用して電圧や周波数変動を抑える仕組みとなっています。
 東京ガスの試算によると、宿泊施設や集合住宅の空調や給湯などにマイクログリッドを導入した場合、火力発電による電力利用に比べ、CO2は39.5%、原燃料となる1次エネルギーも26.5%削減できます。需要に応じて発電することで総合エネルギー効率が向上するためです。東京ガスは、横浜市鶴見区にある横浜研究所において06年から実証試験を行っていますが、これを発展させて、実際のオフィスビルなどの地域電力ネットワークとして既存の電力ネットワークとつなげた実証試験を行うこと目指しています。

草の根からの「ヴァーチャル発電所」

2011-08-29 06:19:43 | Weblog
スマートグリッドでは、センサやインテリジェント・エージェント(仮想代理人となるソフト)がシステムの各所に埋め込まれており、電力の状態に関する情報をリアルタイムで提供してくれるため、必要なときに電流が流れしかも価格は最低限で済みます。
冷蔵庫やエアコン、洗濯機、警報装置などの家電製品、太陽光発電装置や電動装置すべてにセンサが内蔵され、温度や明るさなどの室内環境、CO2排出量などはもとより、太陽光発電による発電量や電気料金に関する情報がリアルタイムで得られる時代はすぐそこまで来ています。
ここで実現するのは、いくつもの小型発電施設をネットワーク化して、ひとつの大型発電所のように見立てる「ヴァーチャル発電所」です。これは、太陽光発電や風力発電など発電量の変動が大きい発電施設に、気象条件などに左右されないバイオマス発電やコジェネレーション・システムなどを組合せ、これらの施設をインターネットなどの情報通信技術を使ってネットワーク化して管理し、それによってひとつの発電所を建設したかのように動かすという考え方です。
 すでにドイツでは、小規模な実証を行いながらその規模を拡大させています。たとえばウナ市(ノルトライン・ヴェストファーレン州)の場合では、5つのコジェネレーション・システム2つのウィンドパーク、1つの太陽光発電施設、1つの小型水力発電施設を組合せて、これらの施設のある地域に電力と熱を供給するヴァーチャル発電所が運転されています。このヴァーチャル発電所は、ウナ市の年電力公社と電力コンサルティング・エンジニアリング会社であるEUS社によって運営されており、その中核となるシステムはEUS社によって開発されました。同システムは、需要予測システム、中央管理システム、自動化システムで構成されていますが、特に重要となる需要予測システムForecastは、過去10年間の電力需要実績から24時間後の電力需要を予測できます。
また、ゴスラール市などを中心としたハルツ地方西部(ニーダーザクセン州)では、ヴァーチャル発電所を電力需要のピーク時に利用する調整電力用エネルギープールとして、大手電力会社Eonから購入する電力量を抑えるために利用しています。地元の配電会社であるハルツエネルギ社は、独自の発電施設を持っておらず、大手電力会社から電力を購入して地域一体に電力を供給していますが、電力需要の変動に効率的に対応するため、地域の個人住宅に設置された小型のコジェネレーション・システム(約200基)と小型水力発電施設、非常電源施設をネットワーク化してヴァーチャル発電所としています。
日本では、北九州市において、インターネット上で自分の世帯のエネルギー使用量をリアルタイムで表示し、省エネ量の「見える化」を図る市民参加型の「ヴァーチャル発電所」である「北九州地域節電所」の構築に着手する計画です。この「北九州地域節電所」においては、省エネ量をエコポイントとして流通させるシステムを構築されます。
このような草の根からの「ヴァーチャル発電所」を各地域で構築し、「ヴァーチャル発電所」同士をネットワークでつないでいけば、前述した「エネルギー&インフォメーションウェブ」が自ずから形成されます。京都大学の松山教授の「オンデマンド電力ネットワーク」の発展形です。そのような時代が到来すれば、私たち一人ひとりが、どのような生活シーンにおいても各自の電力需要をお互いの需要、ニーズやネットワーク上の電力量に照らして、自動的に、かつ、継続的に調整することにより、部分最適と全体最適を同時に実現することができるようになります。これを日本全体で展開しようということで私が提唱しているのが「スマート国民総発電所構想」です。

「デジタルグリッド」構想

2011-08-26 00:26:16 | Weblog
スマートグリッドの進化に関して、東京大学大学院工学系研究科の阿部力也特任教授は「デジタルグリッド」という構想を提案しています。アメリカのスマートグリッドは、電力ネットワークはほぼそのままにして、情報系を双方向に切り替えていくという発想に基づいたシステムですが、阿部教授の「デジタルグリッド」は、電力ネットワーク自体の切り替え、デジタル化を行おうというものです。
 阿部特任教授によると、電力信頼性の高い日本でさえ、太陽光などの再生可能な発電所が日本全国に設置されると、天候によって発電量が左右されるため、大電力の潮流が起きてしまいます。そこで、阿部特任教授は、従来の同期送配電システムを基幹送電線と非同期分散のマイクログリッドに分離しようと提案しています。例えば基幹系統下流の変電所以下を独立したマイクログリッドにし、電力貯蔵装置と分散電源でそれぞれ独自に周波数調整を行って変動を吸収しようというものです。周波数調整範囲を少し拡大すれば、電力貯蔵装置の負担を緩和できます。また、小さなマイクログリッドの電力貯蔵容量に余裕を持たせるため、阿部特任教授の考案した「デジタルパワールーター」を用いて、他のマイクログリッドや基幹系統から必要に応じて電力を融通するようにして、貯蔵容量を少なくできるようにします。 電力を融通し合うルートがマイクログリッドの数の2乗に比例して増えるため、インターネットのように、さまざまなルートから安定的に電力を供給できるようになります。
 これにより、電力を大量に消費する産業部門は基幹送電線から電力を受け取り、民生用の電力は再生可能エネルギーを主体としたマイクログリッドの電力を受け取るという2層構造を構築することができます。マイクログリッド間の融通電力量を調整するには、電力線通信(PLC)により電力網を情報網としても活用します。このため、各マイクログリッドの通過ポイントにIPアドレスを付与しておき、電力を融通し合う問い合わせのプロトコールを定めます。そして、電力を融通する電力量そのものにヘッダーとフッター情報を付けて、そのアドレス情報に従って電力の不足しているところへ配電します。
 こうすれば、電力融通を予約・確定・実施するプロセスが可能となり、新しい電力融通の形態が可能となります。阿部教授は、これを「デジタル電力」と呼んでいますが、この考え方を家庭単位にまで発展させることができると指摘しています。阿部教授は、この新電力系統システムとビジネスモデルを日本国内から世界市場へと輸出していきたいとしています。


「オンデマンド電力ネットワーク」構想

2011-08-24 06:52:07 | Weblog
この「エネルギーの情報化」に関して、京都大学の松山隆司教授は「オンデマンド電力ネットワーク」構想というユニークなコンセプトを提唱し、実証しています。このコンセプトは、供給者主体の“プッシュ型”の電力ネットワークをユーザ、消費者主導型の“プル型”に180度切り替えようというものです。今の電力ネットワークにおける電力需給モデルでは、電力会社にすべての需要に対して安定的な電力を供給することを義務付けています。これでは、本当に必要なもの以上の電力容量を社会全体として持たなければならなくなり、エネルギーのロス、無駄なCO2の排出が起こります。松山教授の発想は、まず需要端で自律分散のユニットを作り、本当に必要な需要に対応した電力を供給するというシステムに転換することにより、エネルギーのロス、無駄なCO2の排出を排除すつとともに、利用者の決定権の拡大を図ろうようというものです。「You Energy」へのパラダイムシフトの典型です。
具体的には、ユーザがスイッチを入れると自動的に電気が流れてくるのではなく、まず、これだけの電力がほしいというパケットを飛ばします。システム上位置づけられた電力マネージャーが個々の家庭、家電機器からのオンデマンドの要求を受けて、その要求にどう対応するかを検討し、その後電力を提供するという仕組みです。この構想では「オンデマンドの要求→マネージャーとの交渉→給電」という手順で電気が供給されますが、見方を変えると、給電されるごとの電力が仮想的にパケット化されているととらえることもできます。
オンデマンド型にすることによる最大の変化は、需要サイドから省エネ、CO2排出削減ができるようになることです。たとえば、利用者があらかじめ電気料金を20%カットするという指示をホーム・サーバにセットすると、20%カットした電力しか流さないという利用者主体の取組みが可能になり、技術的な対応だけによる対応を超えて省エネ、CO2排出削減ができるようになります。生活の質を確保しつつ電量消費をどこまで削減できるかが重要で、そのため、生活パターンの正確な学習とそれに基づいた電力制御方式を使います。
また、「オンデマンド電力ネットワーク」システムの下では、再生可能エネルギーによるグリーン電力と化石燃料によるダーティ電力を仮想的に識別することができるようになりますので(=「電力の色づけ(カラーリング)」)、割高なグリーン電力にプラスのプレミアムを付け、他方、割安なダーティ電力からマイナスのプレミアムを徴収することにより、グリーン電力とダーティ電力の価格の平準化を図ることができるようになります。また、ユーザが再生可能エネルギー由来の電力のみを買いたいという希望を有するときに、それを可能にするという「電力の買い分け」もできるようになります。
そして、長距離送電をしないことによる送電ロスの節減、電力供給の平準化等に伴うCO2排出削減を実現でき、省エネ、CO2排出削減と生活の質の確保水準の両立させる道を開くことも可能となります。


「リアルワールド」と「サイバーワールド」の統合、融合

2011-08-23 06:49:35 | Weblog
スマートグリッドの出現は、エネルギー分野における「リアルワールド」と「サイバーワールド」の統合、融合という大きなパラダイムシフトの一環であると捉えることができます。21世紀の社会の構造を冷静に観察してみると、「リアルワールド」と「サイバーワールド」の2つが併存し、両者の相互作用により人間のトータルな活動が成り立ち、社会が進化していくという構造となっていることに気づきます。「リアルワールド」には、人の流れ、物の流れ、お金の流れとエネルギーの流れの4つの流れがあり、「サイバーワールド」には情報の流れがあります。これらの流れを統合、融合していく過程で巨大な市場の出現による革命的な変化が起こり、新たな社会基盤を構築することができるようになります。
この2つの世界の統合化、融合化の過程の第1段階は、「お金の情報化」です。今や、「リアルワールド」での紙幣やコインの流れとともに、電子マネーやオンライン・トレードなど電子化された数字が「サイバーワールド」で流通するようになっています。第2段階は「物流の情報化」です。「リアルワールド」でのいろいろなものにICタグをつけたり、GPS機能内蔵の携帯電話を活用して、そこからの情報を「サイバーワールド」で管理するもので、食のトレーサビリティ、子供たちの見守り、GPSで表示された地図情報へのきめ細かなサービスの提供などが発展しています。第3段階が「人の活動の情報化」です。ITSでの人の交通活動の広域監視、デジタル・アーカイブ、体内にナノデバイスを埋め込んで無線で健康モニタリングするなど、人間の活動を電子化したり、電子化された人間の活動を見たいといいうニーズに対応しています。
この「リアルワールド」と「サイバーワールド」の統合、融合の最終段階として起こっているのが、「エネルギーの情報化」です。この段階ではじめて「リアルワールド」での流れの中で唯一「サイバーワールド」での情報の流れと結びついていなかったエネルギーの流れが情報の流れと統合、融合します。

日本商工会議所が発行する「会議所ニュース」に書評が掲載されました。

2011-08-22 00:04:34 | Weblog
日本商工会議所が発行する「会議所ニュース」に、拙著『節電社会のつくり方ースマートパワーが日本を救う』(角川新書)に関する書評が掲載されました。


「 福島第一原子力発電所事故の発生で、わが国は今、「電力不足」と「エネルギー危機」に直面している。
 同書は、このような状況の中、節電社会の構築に向けて、電力会社と利用者とをネットワークで結んで情報をやりとりすることで、より便利な電力利用尾可能にするシステムとして、次世代電力網「スマートグリッド」を提案。現在の電力の状況や課題を踏まえながら、スマートグリッドの登場の背景や、導入による効果などを分かりやすく紹介している。
さたに、近未来に向けたエネルギー政策のグランドデザインを考察。スマートグリッドの進展がわが国の社会やビジネスのもたらす劇的な変化などを予測している。
 今後、さらなる節電が求められる中、「スマートグリッド」の仕組みを知ることができる一冊。 」

「アナログ」・「同期型」から「デジタル」・「非同期型」へ

2011-08-12 08:43:23 | Weblog
情報通信ネットワークは、10年ごとに段階を追って進化してきました。1980年代のPCの時代から、90年代にようやくインターネットがネットワークの基盤となりました。2000年代に入ると、それがウェブ2.0やクラウドコンピューティングへと進化してきました。インターネットの社会変革の力は誰もが共通して認めているところであり、その力の源泉はネットワークが生命のように進化していく「自己組織化」にあると考えられます。環境エネルギー問題についても、その解決のためにこれから長い時間がかかるでしょうが、今必要なことは、エネルギーネットワークにも「自己組織化」という息吹きを吹き込むことだと思います。
エネルギーネットワークも、これからは情報通信ネットワークと同様に、「自己組織化」のダイナミズムの下で進化していくものと考えられます。情報通信ネットワークの進化とこれからのエネルギーネットワークの進化を対比させて考えると、情報通信ネットワークの進化は、「アナログ」・「同期型」から「デジタル」・「非同期型」へという大きな方向に向かって進化してきたことがわかります。この大きな進化の方向性は、情報通信であれエネルギーであれ、ネットワークに共通するパターンであると思われます。
そうすると、現状における「アナログ」・「同期型」エネルギーネットワークは、これから「自己組織化」のダイナミズムの下で、「デジタル」・「非同期型」へ進化していくといえるのではないでしょうか。私たちは、今後の「スマートグリッド革命」の発展を構想するに当たり、このような「ネットワークの進化」の視点を忘れてはなりません。

ナガサキ、ヒロシマ、そしてフクシマに思う:「節電文明のつくり方」

2011-08-11 06:40:41 | Weblog
ナガサキ、ヒロシマ、そしてフクシマ。これらは我々に対して文明のつくり方そのものを問いかけているように思われます。6月に放映されたNHKのETV特集「暗黒のかなたの光明~文明学者 梅棹忠夫がみた未来~」<梅棹忠夫の未完の著『人類の未来』をテーマにしたもの>を再び見返して、次のような詩を書いてみました。拙著『節電社会のつくり方―スマートパワーが日本を救う』のモチーフを発展させたものです。拙いもので恐縮ですが、お読みいただければ幸いです。

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「節電文明のつくり方」―節電による「闇」のかなたの「光明」へ    加 藤 敏 春 

梅棹忠夫の未完の著『人類の未来』の最後の言葉は、「暗黒のかなたの光明」。
逆説的だが、節電による「闇」のかなたに「光明」があるかもしれない、と思った。

ナガサキとヒロシマでは「過ちは再び繰り返しません」と誓った。
しかし、今私たちが遭遇しているのは「人災」とも言えるフクシマ。子供たちが日々放射能の恐怖にさらされている。
チェルノブイリでも、子供たちの甲状腺がんが急増したのは事故から4年後。その子供たちが今、結婚適齢期を迎えている。
今必要なのは、うすっぺらな「脱原発」ではなく、考えに考え抜いた「縮原発」ではないか。

文明とは、科学技術により産み出される制度と装置。
一旦できれば、文明はそのほころびを自ら繕うことはできない。
原子力発電も同様だ。
梅棹は、それを「文明との競走」と表現。
「理性」によりひた走る文明は、地球の限界を超え、ときに地球や人類を破壊しようとさえする。

文明とは、「知的生命体」である人間の業としての科学技術が産み出す人類の活動の総体。
文明なき人類は存在しない。しかし、その「文明に未来はあるのか?」。
梅棹は、「理性」に代わる「英知」が必要としている。
40年以上にわたる思索の最後で梅棹が問いかけたと同じ命題に、我々は直面している。
私は、チェルノブイリを訪れた3年前に痛烈にそのことを認識した。

「英知」とは何か。ヒントになるのは「プロシューマー」。
生産活動は最も創造的な活動だ。
情報のみならずエネルギーについて、消費するのみならず生産もする「プロシューマー」。
「情報革命」に次いで必要なのは、「エネルギー革命」。真の「プロシューマー」は情報だけでは出現しない。
「英知」とは、情報とエネルギーの生産活動の過程で「プロシューマー」が陶冶するもの。

国民一人一人が発電所になる「スマート国民総発電所」は、「プロシューマー」が創り上げる社会。
バーチャルな「スマート国民総発電所」は、何十ギガワット=原子力発電所何十基分にも相当するエネルギーを草の根で産む。
電気だけではなく熱。再生可能エネルギーも必要だが、まずコジェネで6割捨てているエネルギーを利用することが必要。
しかも、対象となるのは、ポジワット(創エネ)のみならずネガワット(省エネ)。
「スマート国民総発電所」では、エネルギーが個人やコミュニティの間で相互融通される。それは、「ユーチューブ」の先にある「ユーエネルギー」の世界。

ずっと私は、「情報革命」、「エネルギー革命」に続く「思想革命」の到来について考えてきた。
その「思想革命」は、ルター、カルヴァンなどによる宗教改革に匹敵するマグニチュードのもの。
「プロシューマー」は、「思想革命」の担い手ではないか。この1月、それを「美へのイノベーション」と呼んだ。
マイケル・サンデルの「正義」=「善」の世界を超えたものが「美」の世界。
日本人の美的感覚、善悪意識とも相通ずる。
「プロシューマー」が「美」の世界を創る。日本人の感性が活かされる。

梅棹は、『アマチュア思想家宣言』という小文を発表し、「思想」をもっと気軽に使おうと呼びかけている。
「思想」という言葉は、今は死語に近いが、本来「思想」はアマチュアのためにある。
アマチュアこそが「光明」である、アマチュアこそが文明を変えることができる。
梅棹はそう主張したかったのではないか。

梅棹のアマチュアを私なりに問題設定し直すと、「プロシューマー」。
東日本大震災と福島第一原発の事故の後、文明の舵を切るのは今しかない。
「暗黒のかなたの光明」を目指して。
歴史は、私たち自身が作るもの。「私たち自身が歴史」と梅棹は言っている。

節電こそが「光明」の始まりなのではなのか?
節電による「闇」の中に何を見るか。
「ユーチューブ」の先にあるのは「ユーエネルギー」。真の「プロシューマー」は情報だけでは出現しない。
「プロシューマー」による「思想革命」に期待したい。    (2011年8月9日記す)

「スマートグリッドの進化モデル」

2011-08-10 06:31:41 | Weblog
情報通信ネットワークにおいては、インターネットでの動画共有サービスを提供している「You Tube」に象徴されるように、「あなたが作るテレビ」という段階にまで発展して「個人が番組を作り、配信して楽しむ」というパラダイムが出現しています。新しいネットワークであるスマートグリッドにおいても、この方向、言ってみれば「You Energy」に向けた進化が起こることが予想されます。
図表(http://www.smartproject.jp/model)は、情報通信に限らずエネルギーを含めた公益事業ネットワークへの進化のパターンを示したものですが、縦軸は、消費者主導権が低いか高いか、ネットワークを供給側だけで管理するのか、供給側だけでなく需要側を含めて需給両面で管理するのか、横軸は、ネットワークの構造が集中型のものか、分散型のものなのかを表しています。これが、「スマートグリッドの進化モデル」です。この図において、現在の電力ネットワークはA象限にありますが、スマートグリッドの登場はこれがB象限(主としてアメリカの動き)またはC象限(主として欧州の動き)に移行しようという動きであると理解できます。
A象限は、従来型の公益事業市場構造が優勢であり、消費者は伝統的な供給者と消費者の関係を好んで選択しているかもしくは受け入れている領域です。これに対して、B象限は、消費者がさらなる主導権の確保に向けて着実に前進しているものの、規制または技術的な制約によりその影響力は一定の範囲に限られている領域、C象限は、進展する送配電グリッドおよびネットワーク技術の組合せがエネルギー利用に関する責任の共有化を可能にしているものの、消費者はそれほど主導権を発揮できず、利点の多くは公益事業者側に有利に働いている領域です。
この図表が端的に示すように、B象限またはC象限の行きつく先がD象限です。D象限は、多種多様な送配電グリッドおよびネットワーク技術によって責任の共有化が次第に可能になり、特定のエネルギー利用に関する目標に対する消費者の関心が新しい市場と新しい製品需要を生み出し、利点が消費者と公益事業者間でうまくバランスされている領域です。D象限へ移行しようという動きの典型は、後述する京都大学の松山隆司教授が提唱する「オンデマンド電力ネットワーク」構想と東京大学の阿部力也特任教授が提唱する「デジタルグリッド」構想です。ここでは、分散構造がネットワーク化されていることがポイントです。IT革命時の「誰もが情報発信できる」に相当する「You Energy !誰もがエネルギーを作れる」=「新しいビジネスを創造できる」という「You Energy」へのパラダイムシフトがD象限では起こります。
このD象限への移行が現実に起こりうることに関しては、IBMの07年6カ国調査(日本、ドイツ、オーストラリア、アメリカ、イギリス オランダ)でうかがい知ることができます。「IBM Institute for Business Value 2007」によると、6カ国の企業経営のトップにある人々にアンケート調査したところ、日本とドイツにおいて、D象限を選択した企業経営者の数がA象限を選択した企業経営者の数を上回っています。この調査結果は、一般の想定とは異なったものと言えますが、それだけ新しいビジネスモデルに対する期待が日本とドイツにおいて高いことの反映と言えるのではないかと思います。


インターネットの新世代とスマートグリッド

2011-08-09 06:11:21 | Weblog
インターネットは進化し続け、新世代を迎えています。慶応義塾大学の村井純教授は、『インターネットの新世代』において、今までのインターネットは、情報技術の専門家が、ある方向性や夢を実現するためにどういう技術を用意すればよいのか等を考えるという情報技術の専門家が主役であった時代と総括しています。しかし、スマートグリッドの登場が象徴するように、現在人類は未曽有の環境エネルギー問題に直面しており、これからは、分野を問わずプロ、アマすべての人たちが需要応答などに参加し、それをIPV6やクラウドコンピューティングがサポートするようようになって、インターネットの未来を構築する人になると予想しています。そして村井教授は、これからは、ネットワークを利用する人と作る人の共同作業になると指摘しています。その意味で、現在はインターネットの「折り返し地点」だと位置づけています。
 この本での村井教授の指摘の中で特に関心を引いたのは、これからの電波の利用においては、デジタル技術の活用によって1つの周波数に複数の電気信号をのせて、数多くの人々が参加していても必ず1対1でコミュニケーションができるとして(これは「イーサネット」が実現したパラダイムです)、電波という資源の利用効率が飛躍的に向上することです。
 10年3月16日米連邦通信委員会(FCC)は、オバマ政権の通信政策の基本方針となる「全米ブロードバンド計画」を発表しました。今後10年間のうちに1億世帯に100Mbps級の通信サービスを提供することを目標とする野心的な計画ですが、そのようなブロードバンド化を実現するために、10年以内に500MHz、5年以内に300MHzの周波数を移動体通信に開放するという数値目標を打ち出しました。周波数を500MHz増やすというのは、いまアメリカで移動体に使われている周波数をほぼ3倍にすることを意味します。
日本では現在、技術の進歩を勘案し、電波の混信を防ぐための緩衝帯として電波の割当ての対象になっていなかった「ホワイトスペース」と呼ばれる帯域を、近い将来MobileWiMAXやLTEを使用するような移動体側の無線端末機器に開放することを検討していますが、こうしたホワイトスペースの活用が1つの周波数に複数の電気信号をのせるという技術と相乗効果を有したとき、大きな変革をもたらすことは間違いありません。
インターネットに関しては、最近「モノのインターネット」(IoT: Internet of Things)への注目が高まってきています。従来の「ユビキタスネット」とも通じるところがありますが、ターゲットはより明確で、RFID技術などを使ってあらゆるものをインターネットに接続しようというものです。欧州が言い始めた「モノのインターネット」については、中国も注目しており、国際標準化を目指す動きも活発になってきました。
 「モノのインターネット」を実現するために必須の技術が「エネルギー・ハーベスティング」です。膨大な数のモノをインターネットに接続する場合に、その電源を、交換が必要な電池に頼るわけにはいきません。長期間、燃料補給や交換をせずに電力を供給し続ける技術として、周りの環境から集めたエネルギーを電力に変換するのがエネルギー・ハーベスティングですが、ここで「モノのインターネット」はエネルギーと結びつきます。