プロメテウスの政治経済コラム

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「貧困ビジネス」 究極のアメリカ刑務所ビジネス  日本もその日が近い?

2010-02-10 19:05:01 | 政治経済
日本社会の貧困層の拡大を受けて、貧困に寄生し、もうけをむさぼる「貧困ビジネス」というビジネスモデルが注目されている。「貧困ビジネス」概念は、ホームレス支援や貧困問題にとり組むNPO法人『自立生活サポートセンター・もやい』の事務局長を務める湯浅誠氏により提唱された。ホームレスやニート等の偏見や差別によって社会から孤立した人びとや、フリーターや一人親家庭などのようなセーフティーネットから外れているような生活困窮者にあえてターゲットを当て、支援を装いながら生活保護費等をむしり取る。貧困ビジネスは貧困者の存在が前提であるから、「貧困の解決」ではなく「貧困の固定化」を望む
最近、堤未果さんの『ルポ貧困大国アメリカⅡ』(岩波書店2010)を読んで日本資本主義社会の師匠であるアメリカでは遂に刑務所の囚人が貧困ビジネスのターゲットとなっていることを知った。日本でも厳しい生活を強いられている若者などのなかで、囚人の食費・宿泊費を税金で負担することへの不満が語られている。日本でもアメリカのような刑務所ビジネスが導入されるのは時間の問題かもしれない

 社会保障の抑制路線や大手製造業の「派遣切り」などで日本社会に貧困が広がるとともに、生活困窮者を対象にした「貧困ビジネス」が盛んだ。敷金・礼金なしを宣伝文句に借家人の権利を踏みにじる「ゼロゼロ物件」業者。その業者とつるんでちょっとでも家賃を滞納すれば、居住者を暴力的に追い出す「追い出し屋」。生活保護受給者に必要のない手術をして診療報酬をだまし取る病院(大和郡山市の山本病院など)―。さらに生活保護費をむしりとる悪質な「無料低額宿泊所」や高齢者入所施設の乱立などなど。年収200万円以下の「ワーキングプア」を1千万人以上も生み出す労働者搾取企業も最大の貧困ビジネスであろう。

社会福祉法にもとづく「無料低額宿泊所」は、任意団体でも個人でも自治体に届け出るだけで開設できる。ホームレスの路上生活者に声をかけて入所させ、生活保護を申請させた上、保護費の大半を施設使用料や食費、運営費としてむしりとる。その一つが、関東地方や愛知県に20施設以上を持つ大手のFISで、経営者らが、3年間で計5億円の所得を隠していたとして名古屋地検に起訴された。路上寝泊まりの人に「暖かい所がある」と声をかけ、一緒に役所の窓口で生活保護を申請する。月々の代金はその生活保護費から天引きする。部屋は古い社員寮などを薄い木板で仕切った二、三畳の広さ。食事はご飯とレトルト食品、カップ麺など。月12万円前後の生活保護費から、大半を不当に吸い上げていた。生活困窮者のための生活保護費を吸い上げ、巨利を貪ったうえに脱税までしていたのだ
本来はホームレスたちに一時的に宿泊場所を無料または低額で提供し、職探しなどを支援する福祉的な施設のであるはずの「無料低額宿泊所」。厚生労働省の調べでは、全国で439施設あり、入所者は約1万4千人にのぼる。無届け施設も1400以上あるという(「東京新聞」2010年2月10日)。

日本の貧困対策行政は、社会的批判を受けて、生活保護の申請を窓口で厳しくはねようとする役所の「水際作戦」は少し減ったようだが、自立支援をするケースワーカーや公的な収容施設、安い公営住宅などは、ほとんど面倒を見ない。保護費を巻き上げられた者が、その後の仕事探しや生活の再建をできるだろうか。支給しただけでその後の支援が不十分では、貧困を固定化し、貧困ビジネス業者に材料を供給し続けるようなものだ。

 貧困ビジネス業者に材料を供給し続けるという意味では、アメリカは大先輩である。堤未果さんの『ルポ貧困大国アメリカⅡ』はオバマ政権下のアメリカで、社会の貧困化が加速し、職がみつからず、学資ローンに追い立てられる若者たち。老後の生活設計が崩れた高齢者たち。教育や年金、医療、そして刑務所までもが商品化され、ビジネス化されていることを活写している。
教育や医療、社会保障が営利化、市場化でズタズタにされていることは、資本主義の遅れた「帝国」アメリカでは予想されたことであるが、『テロ』の恐怖を口実に州政府が、生活困窮者が陥る軽犯罪を厳罰化し囚人を増やし、刑務所民営化や多国籍企業が囚人をあたかも外国人にアウトソーシングするがごとくに搾取している実態には正直驚かされたこの場合、州政府はビジネスチャンスを提供して、囚人の上がりをピン撥ねさえしているのだ。それでも、例えばコールサービスをインドにアウトソーシングするより、囚人にアウトソーシングした方がコストは遥かに安い。労働環境が問題になるリサイクル労働などは、囚人にもってこいの仕事だという。刑務所の通常の懲役労働は、劣悪な条件でこき使われるので、囚人はどんな仕事でも契約してくれた企業のために一生懸命働くという。刑務所民営化で刑務所REIT(不動産投資信託)がウォール街で人気が高い投資信託であるというのには、開いた口が塞がらない

 しかし、これは対岸の問題ではない。刑務所民営化は、日本でも2006年(平成18年)の構造改革特別区域法施行令の改正により、構造改革特区の指定を受けた地域へのPFI方式による刑務所の設置という形で始まっているからである。刑務所産業複合体(産獄複合体)が形成されているアメリカでは、ホームレスの取り締まりを強化しているという。日本における最近の厳罰化の動きも将来の究極の貧困ビジネス=刑務所ビジネスを見据えていると考えるのは穿ちすぎだろうか

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