プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

イラクの陸自撤退をどうみるか 対米従属路線に変化なし

2006-06-20 18:15:44 | 政治経済
小泉首相は20日、イラク南部サマワに派兵している陸上自衛隊部隊の撤退方針を決定しました。しかし、イラク情勢が安定し、自衛隊が撤退できる状況になったわけでもなければ、日本が「対米従属」から「自主外交」へ路線変更したわけでもありません。

イラクでは、暫定政権時代が終わり、5月下旬にマリキ首相を中心とする本格政権が発足しました。6月上旬には「イラクの聖戦アルカイダ組織」の指導者ザルカウィ容疑者が米軍の爆撃によって殺害されたと報じられました。しかし、米軍に対するイラク国民の抵抗活動や宗派間対立にともなう暴力の広がりは収束に向かうどころか逆にしだいに悪化しています。6月13日にはブッシュ大統領が電撃的なバクダッド訪問を行い、マリキ新首相を激励しましたが、アメリカ政府はイラク側の誰も信用することができず、マリキ首相がブッシュ大統領が来ていることを米側から知らされたのは、大統領がバグダッドのアメリカ大使館にヘリコプターで到着する5分前のことでした(田中宇の国際ニュース解説 2006年6月20日)。

米政府は、アメリカにとってイラク占領が意味がなくなるまで米軍の数を減らすことがあっても撤退させることはありません。そのことは、米軍が、サンフランシスコ平和条約(1951年)第六条の「連合国のすべての占領軍は、この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない」という規定を無視し、いまだに日本に居座り続けていることを見れば、極めて明瞭です

イギリスは日本やオーストラリアと協議し、イラク南部からの撤退を模索してきました。
イギリスが統括するイラク南部の中心都市バスラでは、状況がどんどん悪化し、事態が改善される見込みがなく、殺人は絶えず、市内の上下水道や電力などのインフラは破壊されたままです。イギリスでのブレア首相の支持率は今や、アメリカでのブッシュ支持率より低い20%台です。支持率の低さと反米的な世論、バスラが安定するまでの長い時間などを考えると、イギリスはアメリカにつき合ってイラク南部の情勢が安定するまで駐留することはできませんでした。

現在活動中の第10次イラク復興支援陸上自衛隊は額賀防衛庁長官の撤退命令を受け、英、オーストラリア軍と同時に早ければ7月末までに撤退を完了する予定です。
しかし、米政府の見返り要求を受けて、航空自衛隊はイラク全土へ活動範囲を広げ、米軍支援を拡大する予定です

イラク特措法で定められている自衛隊の活動は、(1)人道復興支援(2)安全確保支援(米軍などへの支援)―です。空自の活動はサマワに駐留している陸上自衛隊の人員や生活物資の空輸と米英軍などの兵士の輸送を行ってきました。
陸自が撤退すれば、イラクでの自衛隊の活動は米軍支援のための輸送に特化し、イラク派兵の口実としてきた「イラク復興支援」の看板も今はなくなります。イラクに派兵している各国の軍隊が撤退・縮小に向かっている中で、逆に空自の活動を広げることは、日本政府の異常な米国追随ぶりを世界に示すことになります

アメリカは軍事、経済、外交のすべての面で、現在、破綻への爆弾を抱えて一国覇権主義を続けています。
日本政府はいつまでそんなアメリカに付き従うつもりなのでしょうか。




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