プロメテウスの政治経済コラム

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大手銀行史上最高益なのに法人税ゼロの不思議―法人課税のあり方はこのままでいいのか

2006-12-03 20:19:48 | 政治経済
11月22日出そろった大手銀行6グループの2006年9月中間決算は、最終利益の合計が1兆7348億円で、3月期決算に続き、過去最高となった。しかし、税務上は多額の欠損金を抱えたままで、住友信託銀行以外は法人税を納めるようになるのは数年以上も先となる見通しである(日本経済研究センターは、繰越欠損金を解消し、法人税を払うようになるには三菱東京UFJ銀行が約2・5年、三井住友銀行は約3・3年、みずほ銀行が約4・4年かかると試算している)。大手行は、過去に不良債権処理で巨額の赤字を計上し、多額の欠損金が生じた。その後、高利益を上げているが、欠損金を黒字と相殺できる「欠損金の繰越控除」という法人課税上のルールを最大限活用し、法人税ゼロを続けている。過去から繰り越した赤字(発生各年度から最大7年間繰越できる)があるために黒字がでても相殺してしまい各年度の所得がゼロすなわち法人税ゼロとなってしまうのである。古い赤字から順に充当して相殺しきれない赤字は7年以内なら、次々と次年度に繰り越せるのだ(三菱UFJとみずほは2002年3月決算から、三井住友は01年3月決算からから法人税ゼロを続けている。住友信託は1995年3月決算からゼロを続けていた)。
法人は設立から解散・消滅までの間の一営業年度を人為的に1年ごとに区切って所得計算しているのであるから、過去の赤字は黒字と相殺したうえ、通算するというのが、国際的にも法人課税の原則となっている。繰越控除の期限について、日本では2004年度の税制改正で主に銀行業界の巨額欠損金の期限切れを救済するためにそれまでの5年を7年に延長した。ちなみにアメリカは20年、イギリスやドイツは無期限である。

私は、巨大企業の経営実態からみて、たとえば株主数が一定数以上の多国籍企業については、国際的に法人課税を見直すべきだと考えている。個人株主が何人かで事業活動の利潤獲得を目指して法人形態を利用している場合には、なるほど法人の所得は、いわば法人という「通路」を通って、結局のところは個人株主の所得になるという所謂「法人擬制説」が成り立つかもしれないが、株主が何千、何万とおり、独自の存在となった巨大法人は、独立した担税力ある存在(所謂「法人実在説」として扱うべきだと考える。現行法人課税は「法人擬制説」を基本としながら、各国とも純粋な「法人擬制説」でなく、「法人実在説」との折衷となっている。要するに各国政府の政策判断次第で変更することが可能である。
国際会計基準の統一が進みつつある現在、法人課税計算についても相互調整を図るべきだろう。なぜなら各国多国籍企業は他国の制度のうち、自己に有利な制度を表面的にいいとこ取りして、国際競争力の口実で自国政府に制度変更を迫っているからである。

巨大多国籍企業は、独立した担税力ある存在であるのだから各年度の所得自身に担税力があると考えるのが当然である。7年も昔の赤字を相殺してやる必要はない。せいぜい個人事業主と同じ3年で十分である。そして、個人と同じく応能負担=累進課税を適用すべきである。法人税を個人所得税の前払いと考える法人擬制説にこだわるから一律税率となるのである。トヨタのように何兆円も稼ぐ企業にはそれ相応の負担をして貰おう。税金を払いたくなかったら従業員や調達先企業にたくさん払えばよい。それが、企業の社会的責任というものだ。

大手銀行は、史上最高益なのに法人税ゼロを続けながら、利用者にはほとんど利益還元していない。預金金利は多少あがったとはいえ、普通預金の金利は年0・1%。百万円を預けていても千円(税引き後800円)の利子だ。相次ぐ銀行店舗の統廃合や人減らしの影響で、窓口やATMの前で行列ができ、長時間待たされることも珍しくない状況である。三菱UFJなどが公的資金の返済が終わった途端に、政治献金の再開を検討していることもけしからん話である。銀行側は献金の目的を恥ずかしげもなく「社会貢献のため」といっている。社会貢献というなら、利用者・国民に対する利益還元こそ真っ先に行うべきだろう。
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