プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

仏米英 リビア空爆  複雑化する「中東の市民革命」

2011-03-22 19:57:04 | 政治経済

国連安全保障理事会は17日、リビア上空に飛行禁止空域を設定し、カダフィ政権による市民への攻撃を防ぐため、国連加盟国に「あらゆる必要な措置を講じる」ことを認める決議案を採択した。この決議を待っていましたとばかりに19日には、フランスが戦闘機でリビア軍の車両や施設を空爆し、英米もリビア軍の地対空砲基地などに向けて海上から巡航ミサイル110発以上を発射した。事態は外部から介入しての戦争状態という新しい局面に入った。欧米の軍事介入を招き入れた反体制派は、フランス軍の攻撃開始に歓声を上げたというが、欧米帝国主義諸国の助けを借りてカダフィ政権を倒せたとして、その「市民革命」とは一体何なのだろうか。「独裁者が自国民を殺害するのを見過ごすわけにはいかない」という言い分はそれなりの説得力がある。しかし、内戦の一方の側に立っての外国軍の軍事介入が碌なことにはならないというのも過去の歴史の教訓である。仏米英の軍事介入によって「中東の市民革命」は第一の難関を迎えた。

 

国連安保理でのリビア制裁に対する各理事国の賛否の状況は、リビア軍事介入の複雑さと世界の構造が米欧中心から多極型に転換しつつあることを示すものとなった。15カ国の安保理の理事国のうち、常任理事国である中国、ロシアと、非常任理事国であるブラジル、インドというBRICsの4カ国とドイツが棄権し、残りの10カ国が賛成した。BRICsは今回、初めて4カ国が集団的に安保理で政治力を行使し、国際社会で欧米に対抗しうる存在感を示した(田中宇の国際ニュース解説「欧米リビア戦争の内幕」2011320日)。

ドイツのウィティヒ国連大使は「(軍事力行使による)大規模な人命損失の可能性を過小評価すべきではない」と主張。飛行禁止区域の設定にともなう軍事行使には加わらないと表明した。中国、インドの代表も政治的解決の努力が尽くされていないと主張。ブラジル代表は、飛行禁止区域の設定で暴力の停止が実現できるか確信がないとし、ロシアも武力行使による予想外の結果によって、不安定化をもたらすことは避けるべきだと強調した。

 

今回の武力介入は仏英がやる気満々で、いつになく米国が慎重姿勢をとった。アフガン、イラクでの失敗が続き、アラブ世界でこれ以上反米感情が高まるのはかなわないと思ったのかも知れない。米国のゲーツ国防長官は、飛行禁止区域を設定することはリビアとの戦争を意味し、利口な人間がすることではないとまで言っていた。米高官は「リビアに対する武力行使に米国が参加しているのは、カダフィの軍がベンガジを攻撃するのを阻止するための一時的なものであり、カダフィが辞めるまで武力行使を続けるわけではない」とも言っている。

米国は、リビア制裁になんとかアラブ諸国を巻き込むことに腐心している。米政府は今回、実質的なアラブ諸国の軍事参加を、リビア問題への軍事協力の条件とした。サウジアラビア主導のペルシャ湾岸国協力会議(GCC)から、カタールとアラブ首長国連邦(UAE)が、リビア軍と交戦の可能性がある国連軍に派兵することになった。とはいえ、アラブ諸国の戦闘参加は容易でない。アラブ人がアラブ人と戦う、イスラム教徒がイスラム教徒を殺すという、同胞殺しになってしまい、多くのアラブ諸国やイスラム諸国で国民の反発が強まるからだ。ムバラク政権を倒したばかりで市民運動勢力の発言力が強いエジプトは、いち早くリビアの戦闘への不参加を宣言した(田中宇 同上)。

 

アラブ連盟(21カ国と1機構、リビアは資格停止中)のムーサ事務局長は20日、仏米英軍などによる対リビア軍事攻撃について、同連盟が求めた飛行禁止区域設定を超えた攻撃だとして、「われわれが求めているのは民間人の保護であり、民間人をさらに爆撃にさらすことではない」と非難した。アフリカ連合(AU)も19日、リビア爆撃を批判し、停止を求めている。

「反体制派リーダー」たちは、どのような思惑で欧米の軍事介入を招き入れたのか。軍事介入が、市民の保護という目的を超えて、政権打倒をも視野にいれた介入に発展することを始めから期待したのだろうか。

 

欧米とリビアの関係は、イラク戦争前のイラクと欧米の関係に似てきた。空爆だけでは、おそらくカダフィ政権は潰れない。地上軍でリビアに侵攻することは、欧米全体が望んでいない。カダフィは、かつてのイラクのフセインと同様、上空に飛行禁止区域を設定されても政権を維持するだろう。そしてフセインが国連制裁下でイラク国内のシーア派やクルド人の決起を容赦なく弾圧したように、カダフィは国連制裁下でもリビア東部の反政府勢力を容赦なく弾圧するだろう。国連制裁によって、リビアの人々はむしろ苦しみを深めることになりそうだ(田中宇 同上)。
それとも欧米軍は強引に一気にカダフィ政権打倒に向かうのだろうか。

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。