東電福島第１原発事故による放射能被害は、今なお、周辺住民、農業、水産業に深刻な打撃を与え続けている。東電と国による一刻も早い補償開始が必要だ。このような中で、東電の責任を免責する日本経団連の米倉弘昌会長の発言が波紋を広げている。また東芝、日立など原発大勢力は、原発は「なお有力な選択肢」と嘯き、おいしい原発ビジネスを一層推進する姿勢を示している。都合が悪くなると国に責任を擦り付け、人々の不幸までも食い物にし、ビジネス・チャンスにしまう資本のどん欲さは、ただただ呆れるばかりだ。原発を国策としたのは、官僚と政治家であるが、御用学者、一部文化人、マスコミまでをカネで買収し、原発をおいしいビジネスとして推進した原動力は、原発事業者とその関連資本そのものだ。東電の賠償責任の徹底的追及が必要だ。
原発事故被害に対する賠償について定めた「原子力損害賠償法」（原賠法）によれば、原子力事業者（今回の場合、東電）が無限の賠償責任を負うのが原則である。ところが、日本経団連の米倉弘昌会長は11日、長引く福島第１原子力発電所の事故を巡り、東京電力の対応について「東電には頭が下がる。甘かったのは東電ではなく、国が設定した安全基準の方だ」と述べ、「（事故原因は）天災であり、国が支援するのは当然のこと」と語った。米倉会長はすでに、原発震災が段々と深刻さを増している最中の3月16日、東京都内で記者団に対し、福島第１原発の事故について「千年に１度の津波に耐えているのは素晴らしいこと。原子力行政はもっと胸を張るべきだ」と述べ、国と東京電力を擁護した上、無責任にも事故は徐々に収束の方向に向かっているとし「原子力行政が曲がり角に来ているとは思っていない」とまで発言していた。
この騒動の中でも、東芝の佐々木則夫社長は原発の新規受注だけでなく、福島原発１～４号機の廃炉ビジネスにも意欲満々である。まさに、都合が悪くなると国に責任を擦り付け、人々の不幸までも食い物にし、ビジネス・チャンスにしまう資本のどん欲さを象徴する悪徳財界と資本の姿である。
「（事故原因は）天災であり、国が支援するのは当然のこと」という米倉会長の発言は、「原賠法」３条但し書きの米倉流解釈を根拠にしている。「原賠法」第３条は次の通りとなっている。「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない 。」
「異常に巨大な天災地変」の解釈は「一般的には歴史上例の見られない大地震、大噴火、大風水災等」とされている（原子力委員会の『原子力賠償制度専門部会』の報告(案)第４項の解説）。今回の地震はマグニチュード９という『予想を越えた地震』であり、津波も「予想を越えた津波」と言われている。しかし、一般的な地震、津波の巨大さと、今回の福島原発の事故がどうして起こったかとは別問題である。すでに、多くの識者から指摘がなされているように、今回の事故は「天災」でも「想定外」でもない。東電福島第一原発に届いた地震動の重力加速度は、中越沖地震で柏崎刈羽原発が受けた地震動よりも小さかったと報道されている。津波も近くの女川原発は同じ津波でも福島原発のような事故には至っていない。そもそも歴史上例の見られない大地震でも、大津波でもなかった。
米倉会長は、「大規模な天災時には賠償を免責する条項は世界共通の考え方」とも言っているが、一知半解の典型である。ドイツ、イギリス、スイス、カナダ、アメリカ連邦法などは「戦乱」は免責事由だが、「異常に巨大な天災地変」は免責事由として認めていない。
政府は、東電との「政府補償契約」により、原発１カ所（今回の場合、福島第１原発）につき最大１２００億円までの補償金（賠償財源）をまず東電に支出することを考えている（東電はここから被害者に賠償する）。
１２００億円を超える損害額の支払いについては、法律上は東電に支払い義務があることになるが、原賠法16条は、賠償額が１２００億円を超え、「必要があると認めるとき」、政府が国会の議決の範囲内で「必要な援助を行う」と定めている。被害者のために、政府が東電に代わって、立て替え払いすることは、当然に必要である。しかし、それは政府の東電への貸付金であって何年かかっても返済させるべきである。悪徳財界と電力資本をのさばらせるようなことは、決してあってはならない。
