田中派金権政治の嫡流、小沢・民主党幹事長は、イギリスの二大政党制を手本にして「国会改革」をすすめようとしている。しかし、ウェストミンスター・モデル(イギリスの国会議事堂の所在地からこの名がある)は果たして日本のモデルにふさわしいのか。6日投票の英総選挙で、小選挙区制・二大政党制のもとでも、国民との矛盾の激化の表れとしていわゆる「ハング・パーラメント(過半数の議席を得た政党が不在)」が出現した。総選挙結果で第1党となった保守党は、第3党の自由民主党との連立内閣樹立で合意。保守党のキャメロン党首が首相、自民党のクレッグ党首が副首相に就任した。小沢・民主党幹事長は、その田中派的金権体質といい、イギリス至上主義といい、もはや過去の政治家である。日本の国民主権、議会制民主主義の発展のために速やかな退陣を願おうではないか。
6日投票の英総選挙(単純小選挙区制)の開票の結果、候補者が死亡し27日に投票が行われることになった1選挙区を除く649議席が確定した。第1党の保守党が306、労働党が258、自民党が57となり、どの政党も過半数議席326に届かない「ハング・パーラメント」事態となった。保守党と労働党の合計得票率がまた減り、今回は65・1%。今世紀に入り約7ポイント減った。1950年代には保守党と労働党の合計得票率は9割超。「7割を切ったら二大政党制は機能しない」(フィナンシャル・タイムズ4月27日付)といわれており、小選挙区制が時代に合わないことが改めて示された。
小選挙区制は死票が多く少数政党に不利な制度。保守党は36%の得票で議席占有率47%、労働党は29%の得票で議席占有率40%となったのに対し、自由民主党は23%の得票で議席占有率は8%にすぎなかった。得票と当選者との関係では保守党と労働党が選挙制度の欺瞞によって明らかに嵩上げされたのに対し、自民党は、得票率に比べてずっと少ない議席しか獲得できなかった。労働党と自民党では、得票率ではたった6ポイントの差にすぎないのに、議席では201議席もの差がついた。これをインチキと呼ばずに、何と呼んだらよいのか。
小選挙区制によって、2大政党化が進み、政治を安定させ、政権交代を促進するといわれるが、イギリスでは、小選挙区制が長い間実施されてきた結果、2大政党化が進んだのではなく、多党化が進んできた。今回の総選挙に候補者を立てた政党は、保守党、労働党、自民党などの主要な政党だけでなく、民主統一党やスコットランド国民党などを含めて、全部で10政党に及んだ。これだけの政党が候補者を立てているということは、2大政党化の偽りを示しているだけでなく、2大政党では国民の要求や利益を代表できないということをも示している。2つの政党がちゃんと機能し、利益代表としての役割を果たしていれば、これほど多くの政党が候補者を立てる必要はなかったはずである。つまり、2大政党制は、今日のイギリスにおいて、もはや市民社会と政府を媒介するシステムとして機能不全に陥っているということだ。イギリスにおいても、2大政党制はその役割を負え、時代遅れになっているのだ(「五十嵐仁の転成仁語」2010-05-10)。
ところが、この時代遅れのウェストミンスター・モデルを手本にして、「国会改革」や「比例定数削減」を進めようとしているのが、小沢民主党である。
ウェストミンスター・モデルとは、要するに多数決民主主義である。小選挙区で一票でも多くとったものが当選し、二大政党のどちらを選ぶかという政権選択の制度である。そして、その政権選択は、政策(マニフェスト)と党首がワンパッケージとされ、政党を選ぶというだけではなく、党首を選ぶ、つまり総理大臣を選ぶ選択になる。選ばれた内閣総理大臣がマニフェストを実行し、その実績について次の選挙で評価する。
ウェストミンスター・モデルは、小選挙区制、二大政党制のもとで、政府、内閣に強い権限が集中する体制となっている。小沢民主党が目指す「政治主導」、「国会改革」は、「選挙による独裁」とも形容され、与党議員も内閣には刃向かえず、野党が抵抗しても法律は成立してしまうという強い内閣主導の国会審議のもとで、審議が空洞化しているという批判がイギリスでも強まっている。
選挙権を持つ国民が、政権運営を、多数党および多数党が形成する政府に付託することは、一見、民主的であるように見える。しかし、私たちが国民主権を発揮する局面は、数年に一度の選挙のときだけであろうか。
そもそもマニフェストには、たくさんの政策がワンパッケージで掲げられている。一人ひとりの国民にとっては、この政策は支持できるが、この政策は支持できないということにならざるをえない。マニフェストによる選択はこちらのパッケージがヨリマシという程度のものだ。
国民主権、議会制民主主義の発展のためには、小沢民主党がたくらむ「選挙による独裁」ではなく、国民の多様な声をできるだけ正確に議会に反映させる選挙制度をとるとともに、選ばれた議員の議会での審議をつうじて、行政、内閣にまで主権者・国民の民意を届ける合意民主主義こそが求められている。
民主主義は、数年に一度訪れる祝祭ではなく、もっと日常的なものなのだ(湯浅誠「社会運動と政権 いま問われているのは誰か」『世界』2010・6/no.805)。
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↑201議席です。