プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

北朝鮮の軍事力をどう見るか

2006-07-10 18:39:56 | 政治経済
北朝鮮の弾道ミサイル発射を受け、自衛隊が敵ミサイル基地へのピンポイント攻撃能力を持つべきだとあたかも先制攻撃も辞さずという危険な議論が始まっています。こういうときこそ、そもそも軍事力とはなにか、北朝鮮の軍事力の実態はどんなものか冷静な分析が必要です。

まず、一国の総合的な戦力を比較する一般的な指標である軍事費はどうか。北朝鮮の予算において、軍事費が占める比重は、発表より最小3倍以上高いものと理解されています。北朝鮮の発表軍事費は、最近、毎年13~14億ドル程度であるので、実際の軍事費は、その3~4倍の45~50億ドルに達するものと思われます。日本の軍事費は450億ドル程度ですから、日本の一割程度です。

陸軍の現役兵力(推定) は100万人で自衛隊の14万7000人に比べると相当多いように見えます。しかし、現代の軍隊の地上戦力は兵力が多ければ強力というわけではなく、その機械化の度合いと兵器・兵員の質が重要です。「戦車を中心とした機甲師団は旧式化しており、いまだに旧ソ連製のT-62が主力戦車である。多国籍軍から壊滅的打撃を受けたあのイラク陸軍の主力戦車がT-72であることを考えると、それよりさらに旧式である北朝鮮人民軍機甲師団の戦力は非常に大規模であるが技術的に劣ると言わざるを得ない。この点については、さまざまな軍事アナリストが同様に指摘する通り」です(有事戦略研究会「朝鮮有事問題の研究」)。

「海軍兵力は5万人、海軍主力は、フリゲート艦3隻に小型潜水艦25隻に過ぎない。他に、哨戒艦艇・沿岸戦闘艦艇が390隻といわれる。これに小型潜水艇、魚雷艇173隻を含めても、海戦、大規模上陸作戦等を遂行する能力は全くないといえ」ます(有事戦略研究会同上)。海上自衛隊は本格的な航空母艦をもたないことを除いては、世界有数の「海軍」(艦艇保有量でも世界第五位)です。

「空軍兵力は8万人、作戦機770機、ヘリコプター50機です。ミグ29が40機、スホイ25が30機ある以外はすべてミグの旧式ばかりであって、まともな戦力とは言い難いというのが専門家の一致した評価である。また、燃料難から航空訓練もまともに行えない状態である」といいます(有事戦略研究会同上)。航空自衛隊は数量的には世界12位で北朝鮮より劣りますが、主力戦闘機がアメリカ軍と同一の機種であることを考えるとやはり世界的に有力な空軍です。

北朝鮮は、弱小な陸軍、海軍力、空軍力を補うために弾道ミサイルの開発に力を入れています(ノドン1、2号やテポドン1、2号)。これらの弾道ミサイルをはじめとした火砲戦力を脅威とみるかどうかは専門家でも意見が割れています。弾道ミサイルの技術的劣悪さ(旧式液体燃料、弱体なボディ、破片範囲の狭さ)を指摘し、韓国や日本に着弾しても大規模な被害はないとする論者もいます。

北朝鮮は、大規模な侵攻作戦を行えるだけの軍事力・兵站・調達力を持っていません。唯一、核弾頭を搭載した弾道ミサイルの開発・配備がなされると厄介な存在となることは確かです。しかし、核ミサイルを使用するといことは、アメリカの核攻撃の反撃を覚悟しなければなりません。戦略原潜を持たない北朝鮮にとってはアメリカの主要部分への打撃は無理でしょう。韓国・日本と北朝鮮自身が破滅し、アメリカだけが生き残るような結果を招くだけです。

軍事力は存在するだけでは、直ちに<脅威>になりません。軍事力が<脅威>になるのは、その国と敵対的な関係となったときです。北朝鮮については、冷戦時代から国交のない唯一の近隣国家として不正常な関係を続けてきて、そのような政治関係が反映して<脅威>が強調されています。<脅威>であるから敵対しているのではなく、政治・外交上の不正常な関係が相手を<脅威>にしてしまうことを忘れてはなりません。
いかに<脅威>(政治・外交上の不正常な関係)を作らないかの観点での外交努力が双方に求められます




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。