デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

リチャード・デイヴィスと目が合った。彼はニヤリと笑った。そして絃が大きく揺れた。

2023-10-08 08:27:34 | Weblog
 9月6日に亡くなったリチャード・デイヴィスを1992年に僅か1メートル前で聴いている。あの強靭なベーシストが目の前にいるのだ。中村達也のバンドでマービン・ピーターソンとジョン・ヒックスが加わっていた。椅子に座ったままのプレイだったがフロントを揺さぶるリズムと、歌心溢れるソロは、体型と表情こそ変わったものの「Heavy Sounds」のままだ。

 「Kind of Blue」や「Cool Struttin'」、「Groovy」等の名盤で、最初に覚えたベース奏者はポール・チェンバースだった。そしてジャズの深いところに一歩聴き進む。そこでエリック・ドルフィーにブッカー・アーヴィン、ボビー・ハッチャーソン、アンドリュー・ヒル・・・個性際立ったミュージシャンと渡り合った稀代のジャズマンに出会う。チェンバースも魅力あるラインを刻むが、「Out to Lunch」や「The Song Book」、「Dialogue」、「Point of Departure」はデイヴィスの存在がなければ後世まで聴き継がれるアルバムではなかったかも知れない。

 3,000作以上の録音がある多忙な音楽家の初レコーディングは、映画「グリーンブック」で話題になったドン・シャーリーとのデュオ「Tonal Expressions」で、「The Man I Love」や「Love Is Here To Stay」のスタンダードを弾いている。そしてサラ・ヴォーンのバンドで5年間修業を積む。一癖も二癖もある;ジャズシンガーである。バックで坦々とリズムを刻んでいるだけでは「Swingin’ Easy」や「After Hours At The London House」、「No Count Sarah」というマーキュリー時代の名作にクレジットされない。この時代に卓越した技術を身に付けたのだろう。

 件のライブはスタンダード中心の選曲だった。聴き慣れたご機嫌なフレーズに思わず唸る。目が合った。彼はニヤリと笑い、絃が大きく揺れた。拍手のなか小生の「YEAH!」が大きく響く。米ジャズ誌「Downbeat」国際批評家投票のベース部門で、1967年から74年まで8年連続トップに選ばれた記録はこの先も破られない。享年93歳。合掌。
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1 コメント

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管理人敬白 (duke)
2023-10-08 08:33:36
管理人敬白

いつもご覧いただきありがとうございます。

ジャズ界は寂しくなりました。リチャード・デイヴィスを聴かれた方はライブのご感想をお寄せください。

中村達也のライブについては2015年12月20日の拙稿「マイルスが煙を吹いたって?」をご覧ください。
マービン・ピーターソンを批判していますので、ハンニバルのファンの方は見ない方がいいかもしれません。

https://blog.goo.ne.jp/duke-adlib-note/e/a9fa184a7bf0eb69fe928340a59eb257

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