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第172話 「孫の手」



年が明けて、女房の実家へ新年のあいさつへ出かけようとしたときのこと、女房が何やら大声を張り上げている。「テ、テ、テレビの予約ができないィー。」

「とりあえず帰ってからだぁー」と、すでにエンジンをかけ待っていた隣に住む長男家族の車に乗る。

韓流ドラマを録画したかったのか!?女房は、車が走り出してもしばらくモゴモゴ…。
(そんなのどうでもいいべ―)
我が家のテレビ内蔵ファイルは、録画した韓流ドラマで埋めつくされテレビ台の棚はこれまた韓流ドラマをダビングしたCDが山積みになっている。

新年会は大賑わい。わが家の孫と甥、姪の子たちにそれらの両親であふれかえり足の踏み場もない。熱気むんむんで来ていたセーターを脱ぐ。さらに今年はベビーラッシュで、年明け早々出産予定のひとりを筆頭に3月ひとり5月にはふたりとつづく。

義弟は、「来年はこの家に入りきらなくなる。どうするべ」。

家に帰ってからどぉれーと、リモコンをいじるが “○○ケーブルが接続されていません…”とかなんとか訳の分からない単語が画面に出る。テレビの裏側を見る。と、何本ものコードが、一応差し込み口を触ってみる。酔っているせいもある。眼鏡を外してもかけてもぼやけて、赤白二本のコードは三本になって揺らいでいる。
「あぁぁこりゃだめだ。息子に電話しろ。」スマホをテーブルに置いて女房が「ほんとやさしい子だこと、“OK分ったよ…いま行くから” だと。誰に似たのかねぇー」。

昨年の夏、山から帰ると右足のアキレス健の辺りがチクチクする。どうやらとげが刺さったらしいが、裏側なので自分ではどうしようもない。天眼鏡を持ち出した女房は「全然見えない」。そして連絡を受けた長男は3人の息子を引き連れ、ワイワイガヤガヤとやって来て大騒ぎのすえ無事抜いてくれた。ダニが背中に喰いついた時もそうだった。

先に中学になった孫がやって来て追っ付け長男もくる。あーでもない、こうでもないとふたり―。結局何のことはなく赤白の差し込みがあべこべになっていたらしい。「掃除のとき差し違えたのかねぇ―」と、女房はテーブルの皿に盛ってあったお菓子を袋に入れ孫に持たせる。

チビチビとやりながら、文明の利器こそ大きく変わったものの、自分が幼かった頃の日常と然して変りのない今を、幸せに感じた正月だった。
そして「歳とったな」と、ひとりごと。

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