どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ238

2008-07-16 12:58:02 | 剥離人
 A県を流れる一級河川、S川の土手では、着々と工事の準備が進んでいた。

 ハルと本村組の若い衆の頑張りにより、あっという間にサクションホースは水管橋内に引き込まれ、その全ての接続を完了した。
 使用本数11本、総延長220メートルのオレンジ色のアナコンダは、土手の上にその身をうねらせ、その尻尾は、バキューム装置の大きなフランジ(円盤状の継手部品)に押さえ込まれていた。
「凄いよこれは、木田ちゃん、これだけでも前例が無いからね」
 F社の大澤は、繁々とサクションホースを眺めている。
「超高圧ホースも今から繋ぐからね」
「あ、三浦がロボットに超高圧ホースを繋ぐ前に、どのくらい減圧するかを調べたいって言ってたよ」
「どうやって調べるの?」
「携帯用の『ハイプレッシャーゲージ(超高圧用計量器)』があるんですよ」
「ふーん、そんな物があるんだ。いいよ、繋ぎ終わったら三浦さんに教えるからさ、三浦さんは管内?」
「ええ、協成の前山さんと、佐野さんたちと一緒に、ロボットを組んでいますよ」
「まあ、あれだけのメンバーだからね、安心して任せられるね」
 私は、管内ロボットの組立てに関しては、一切口を挟まない事にしていた。現実的に、それを一々管理する余裕も無いし、今、その仕事をやっている人間達は、全員がその道のプロフェッショナルだ。十分信頼に値すると、私は思っていた。

「木田君、超高圧ホース、やるんでしょ?」
 マンホールから出て来た小磯が、大声で話しながら歩いて来た。
「あれ、小磯さん、ロボットは?」
「いいよ、管内は。あれだけの人数が居れば、十分だよ」
「ま、そうですね」
「それよりも、ちゃっちゃと高圧ホースを接続しようよ」
「ええ、ハスキーからは一本出しましたけど、まだ他は手がついていませんからね」
「じゃあ、俺とハル、それから本村組の若い衆でやるよ」
「いや、小磯さん、手元は後藤さんを使って下さいよ。本村組の若い衆は、今から単管パイプと防音シートで、遮音壁を作ってもらいますから」
「俺とハルと、あの人と三人で、200メートルもホースを繋ぐの?」
「僕も残りのセットアップが終わったら、すぐに手伝いますから」
「頼むよ、木田君!」
 小磯はブツブツと言いながらも、ハルを呼びつけると、超高圧ホースを両肩に担いで運び始めた。
「すごいね、みんな!あの9/16(インチ)のホースを、両肩に担いで歩けるの?」
 小磯とハルがホースを運ぶ姿を見た大澤は、驚いた顔をしている。
「俺も最初は一本しか運べなかったけど、人間、慣れればそれが当たり前になりますよ。大澤さんも現場仕事に染まると、重いものが持てるようになりますよ」
「あははは、本当ですか?僕には無理そうだけどなぁ…」

 私は笑いながら歩き出すと、バキューム装置から五メートルほど離れた水処理ユニットに近寄った。
 東正産業の新谷と、鬼頭化工の真鍋が、図面を見ながら配線を持ってウロウロしている。
「どうですか?」
「ええ、まあなんとか…」
 新谷がケーブルを手に、苦笑いをしている。
「その様子だと、お二人を呼んで正解でしたね」
 新谷が不思議そうな顔をする。
「これを僕が一人でやっていたら、それだけで一日が終わっちゃうって事ですよ」
 再び新谷が苦笑いをした。
「新谷さん、可搬式って割には、どうして機器間の電源ケーブルが、コネクター式じゃないんですか?」
 水処理ユニットは、水処理装置を六分割にしてあるので、それぞれのセンサーの制御の関係もあり、電線類がやたらと多かった。
「電源ケーブルをコネクター化すると、間違えて他の場所に接続してしまう危険性があると思うんですよ。安全性を考えると、端子による接続方式の方が、間違い無いと思いまして…」
 新谷の手には、端部を端子でかしめた200V用の電源用電線がある。
「いやぁ、やっぱり現場ではスピードも大切ですよ。今度全部の配線をコネクター化しませんか?」
「そうですね、その方が良いと思います!」
 側で私と新谷の会話を聞いていた真鍋が、ニコニコと笑っている。
「真鍋さん、凄くいい笑顔ですけど、真鍋さんの所で製作したんでしょ、これ」
「はいっ!おっしゃる通りです!」
 また真鍋は、ニコニコとしている。どうにもこうにも、喰えない親父の様だ。
「夕方までには終わりますよね」
「さすがに、さすがにそれは大丈夫です」
 またしても新谷が苦笑いをした。
「頼みますよ!」

 私は二人を後に残すと、今度は本村組の若い衆に、遮音壁の設置場所について指示するために、土手を歩き出した。




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