どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ431

2009-05-05 01:12:49 | 剥離人
 フライトデッキの上には、部品交換を終えたキャット(剥離ロボット)が左側面を下にして立てられている。

 私はキャットの背中側に回ると、エマージェンシースイッチ(緊急停止ボタン)が押し込まれたままのコントローラーを引き寄せ、身体の側に置く。
「じゃ、チェックしますよぉ!」
「ホイヨ!」
 私以外の人間がキャットから離れる。
「カシュン!」
 押し込まれたエマージェンシースイッチを左に捻って解除し、右手をジェットの発射ボタンに沿え、左手でキャットのボディをしっかりと押さえる。
「カチッ!」
 黄色のボタンを押し込む。
「ゴバぁあああああああああ!」
 キャットのどてっ腹から、圧力2,800kgf/cm2の八本のジェット水流が噴射される。
「ジュボワァああああああああ!」
 反力でキャットが背中側に倒れそうになるが、両手でステンレスのボディを押さえ込み、倒れるのを防ぐ。
「何だよ、右の三番目のホーネット(サファイアを内臓した部品)もダメじゃんかよ…」
 回転こそしていないが、八本のジェット水流が発射されているノズルを、キャットのボディを押さえ込みながら距離数十センチで観察するのは中々勇気が要る。
「カチッ!」 
 もう一度左手一本でキャットのボディを支えながら、ジェットの発射スイッチを押す。
「シュバぁあああ、シュボっ!」
 ジェットが停止する。
「ダメ?」
 私がエマージェンシースイッチを押し込むと、離れていたハルが近寄って来る。
「ええ、右の三番目がダメですね、すぐに交換しますね」
 私は3/8インチ(約9.5mm)のレンチを出すと、すぐにホーネットを交換し、再びテストを行う。

「じゃ、もう一回やりますよぉ」
 再びキャットの背面に腰を下ろし、コントローラーに手を添える。
「ハァ、っとによぉ…」
 腰を下ろした時に感じる蓄積した疲れにウンザリとしながら、私はおもむろにに黄色いボタンを押した。
「カチっ!」
 この時、私はキャットのボディを押さえるべき左手を不用意に放していた。
「ゴバっぁああああああああ!」
 八本のジェットが吹き出るのと同時に、キャットのボディが傾き始める。
「!!!」
 一瞬、左手を添え直そうか迷ったが、腹から八本の牙を剥く怒れる機械猫の狂気に、私の身体は逃げ出すことを選択していた。
「ジュバぁあああああああ!」
 キャットは腹からジェットを噴き出しながら、スローモーションの様にフライトデッキに向かって倒れていく。
「ギュバボぉおおおおおお!ドっごガンッ!!」

 キャットは完全に腹を剥きだして甲板にぶっ倒れ、ほぼ同時にジェットの発射を停止させた。
 
 


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