ようやく待ち望んでいた5tのフォークリフトがやって来た。
左舷中央のエレベータ(主に戦闘機などをハンガーデッキからフライトデッキに上げる為の、大型平面昇降装置)に、クレーンで吊られたフォークリフトが載せられる。そもそも5tのフォークリフト自体をクレーンで吊る光景など、ほとんど見ることが無いので、私はエレベータ脇のキャットウォークから、じっと作業の様子を観察していた。
「木田さん、これでようやく仕事が始められるね」
ハルは、驚くほど高速で静かに上昇してくるエレベータ上のフォークリフトを見て、ニコニコとしている。
基本的に職人達は、一定のペースで仕事をすることが大好きで、矢継ぎ早に雑事が押し寄せて来たり、イレギュラーな状況が入り込んで来る仕事を非常に嫌う。しかしそれ以上に職人にとって苦痛なのが、『何も仕事が無い』状態だ。彼らにとっては、何もする事が無い時間というのは、想像以上に退屈で苦痛な時間らしい。
フォークリフトがフライトデッキ(飛行甲板)に上がると、さっそく我々の機材が移動される。
「四郎ちゃん、ウチは一番端っこ?」
「うん、そこの溶接ビード(溶接痕の盛り上がり)から向こうはハルちゃんの仕事だぉ」
フライトデッキは分厚い鉄板を溶接して出来ており、その溶接の繋ぎ目は塗装の上からでもハッキリと分かるのだ。
「なんかウチの方が広くない?」
ハルは幸四郎に文句を言いながら、残りのエリアをじっと見る。
「そんなこと無いってよぉ、こっちも同じだべぇ!そこからこっちをウチは三台のキャット(剥離用ロボット)でやるんだぉおおお!」
幸四郎は笑いながら、ハルの意見を否定する。
「っちゃあ、本当によぉ?木田さん、四郎ちゃんに騙されない様に、きちんと計った方がイイよぉ」
ハルも笑いながら幸四郎に反論する。
今回の仕事の内容は、船首から船尾に向かって、フライトデッキに塗られている『ノンスキッド』と呼ばれる、恐ろしく硬い塗装を、ロボットを使って剥離することだ。
このノンスキッド塗装は、艦載機が離着艦する際に滑り止めとしての重要な役目を果たす塗装で、塗膜表面には細かい筋状の波模様が出来ており、さらにその波模様の表面は、混入された砂によりザラザラとしている。
波模様の波頭は非常に鋭利に尖っており、この甲板の上で転ぼうものなら、下手をすれば大怪我をすることは間違いない。実際、膝の皿の骨を割った職人が何人も居ると、辞めた小磯が言っていたのを私は思い出していた。
「さ、コンテナの位置も決まったし、セットアップをしますか」
私は作業用コンテナのシャッターと、もう一台のロボット用コンテナの扉を開けた。
「じゃ、とりあえず超高圧ホースからセットするねぇ。ところで何メートル分ホースを繋ぐの?」
ハルは早くも9/16(インチ)の超高圧ホースを左肩に担いでいる。
「60mですね」
「そんなに繋ぐのよ?」
「とりあえず一回で30m分剥離するみたいですよ、向こうまで行ったら、帰りは頭からターンしますから」
「そっかぁ、尻尾(ホース類)が長いから後ろに下がれないんだね」
ハルは言いながら、右肩にも9/16の超高圧ホースを担ぐ。
「そうですねぇ」
「うわぁ、じゃあアナコンダちゃんも60mぅ?」
「うはははは、そうですね」
「うひゃひゃひゃ、道理でサクションホースの量が多いと思ったよぉ」
「そういう事です」
ハルは笑いながら、9/16のホースを一本ずつ担いだ堂本と須藤を引き連れて、甲板の上を歩き始めた。
私はハスキー(超高圧ポンプ)とエアコンプレッサー、バキューム装置のセットアップのために、コンテナからフィルター類を甲板の上に運び出したのだった。
左舷中央のエレベータ(主に戦闘機などをハンガーデッキからフライトデッキに上げる為の、大型平面昇降装置)に、クレーンで吊られたフォークリフトが載せられる。そもそも5tのフォークリフト自体をクレーンで吊る光景など、ほとんど見ることが無いので、私はエレベータ脇のキャットウォークから、じっと作業の様子を観察していた。
「木田さん、これでようやく仕事が始められるね」
ハルは、驚くほど高速で静かに上昇してくるエレベータ上のフォークリフトを見て、ニコニコとしている。
基本的に職人達は、一定のペースで仕事をすることが大好きで、矢継ぎ早に雑事が押し寄せて来たり、イレギュラーな状況が入り込んで来る仕事を非常に嫌う。しかしそれ以上に職人にとって苦痛なのが、『何も仕事が無い』状態だ。彼らにとっては、何もする事が無い時間というのは、想像以上に退屈で苦痛な時間らしい。
フォークリフトがフライトデッキ(飛行甲板)に上がると、さっそく我々の機材が移動される。
「四郎ちゃん、ウチは一番端っこ?」
「うん、そこの溶接ビード(溶接痕の盛り上がり)から向こうはハルちゃんの仕事だぉ」
フライトデッキは分厚い鉄板を溶接して出来ており、その溶接の繋ぎ目は塗装の上からでもハッキリと分かるのだ。
「なんかウチの方が広くない?」
ハルは幸四郎に文句を言いながら、残りのエリアをじっと見る。
「そんなこと無いってよぉ、こっちも同じだべぇ!そこからこっちをウチは三台のキャット(剥離用ロボット)でやるんだぉおおお!」
幸四郎は笑いながら、ハルの意見を否定する。
「っちゃあ、本当によぉ?木田さん、四郎ちゃんに騙されない様に、きちんと計った方がイイよぉ」
ハルも笑いながら幸四郎に反論する。
今回の仕事の内容は、船首から船尾に向かって、フライトデッキに塗られている『ノンスキッド』と呼ばれる、恐ろしく硬い塗装を、ロボットを使って剥離することだ。
このノンスキッド塗装は、艦載機が離着艦する際に滑り止めとしての重要な役目を果たす塗装で、塗膜表面には細かい筋状の波模様が出来ており、さらにその波模様の表面は、混入された砂によりザラザラとしている。
波模様の波頭は非常に鋭利に尖っており、この甲板の上で転ぼうものなら、下手をすれば大怪我をすることは間違いない。実際、膝の皿の骨を割った職人が何人も居ると、辞めた小磯が言っていたのを私は思い出していた。
「さ、コンテナの位置も決まったし、セットアップをしますか」
私は作業用コンテナのシャッターと、もう一台のロボット用コンテナの扉を開けた。
「じゃ、とりあえず超高圧ホースからセットするねぇ。ところで何メートル分ホースを繋ぐの?」
ハルは早くも9/16(インチ)の超高圧ホースを左肩に担いでいる。
「60mですね」
「そんなに繋ぐのよ?」
「とりあえず一回で30m分剥離するみたいですよ、向こうまで行ったら、帰りは頭からターンしますから」
「そっかぁ、尻尾(ホース類)が長いから後ろに下がれないんだね」
ハルは言いながら、右肩にも9/16の超高圧ホースを担ぐ。
「そうですねぇ」
「うわぁ、じゃあアナコンダちゃんも60mぅ?」
「うはははは、そうですね」
「うひゃひゃひゃ、道理でサクションホースの量が多いと思ったよぉ」
「そういう事です」
ハルは笑いながら、9/16のホースを一本ずつ担いだ堂本と須藤を引き連れて、甲板の上を歩き始めた。
私はハスキー(超高圧ポンプ)とエアコンプレッサー、バキューム装置のセットアップのために、コンテナからフィルター類を甲板の上に運び出したのだった。
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