どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ417

2009-04-04 15:44:25 | 剥離人
 軽自動車を引っ繰り返したという話を聞いて、堂本は驚いた顔でハルを見つめていた。

「嘘ですよね?」
「っちゃあ、なんでハルちゃんが、そんなことを嘘つかなきゃなんないの!」
 ハルは憤慨して、眉間に大量の皺を寄せる。
「本当なんですか?」
 堂本は私に話を振る。
「まあ、現場を見たわけじゃないけど、前に俺もハルさんから聞いてるしね、わざわざ嘘を付く理由もないと思うよ。何よりもリアルだし…」
 私は正直な感想を、堂本に伝えた。
「あのぉ、どうやって?」
 それまで黙っていた須藤が、初めて口を挟んだ。
「どうやってって、一人で持ち上げるんだよ」
「一人でぇええ?」
 須藤が口を開けて固まる。
「簡単さぁ、ボディを持ち上げて何度も揺すってると、どんどん揺れが大きくなるから、そのまま一気に押し倒すんだよ」
「・・・」
「・・・」
 堂本と須藤には理解出来ないらしい。
「ね、木田さん!」
「うはははは、そうですね」
 ハルはニコニコとして私に同意を求める。
「あれ?そう言えば横倒しにしたんでしたっけ?」
 私はハルに確認する。
「いや、横倒しじゃなくて、車体の下から持ち上げて完全に引っ繰り返してやったからね、ゴロンっ、なんてネ!だから天井が下さぁ」
「うはははは、しかし酷い話ですね」
「うひゃひゃひゃ、完全に頭に来てたからね」
 ハルは楽しそうに笑い出す。
「あの、誰の車を引っ繰り返したんですか?」
 いきなり堂本が、気付いて当然の疑問を、ハルにぶつけた。
「確か別れた彼女の車でしたよね」
 私が代わりに答えると、ハルは大笑いをした。
「うひゃひゃひゃひゃ、そう、そうなんだよねぇ、別れたってのにしつこい女でさぁ、あんまりしつこいから車を引っ繰り返してやったんだよ」
「それはちょっと可哀想な気が…」
 さすがに堂本も同情する。
「でも、その彼女にはバレなかったんですか?」
 ハルはさらにウヒョウヒョと笑う。
「うひゃひゃひゃひゃ、すぐにバレたねぇ、『あの車、ハルちゃんがやったんでしょ!』って言われたもんね」
 ハルは全く悪びれもせずに、平然と答えている。
「それでどうなったんですか?」
 須藤は首を斜めに傾げる。
「いや、別にそのまんまだよ。車は廃車にしたって、後から聞いたけどね」
「そ、それで許されたんですか?」
「別に何も言われなかったねぇ」
「…そ、そうですか」
 須藤は苦笑いをし、堂本は脱力して笑っている。
「だからあんなの、『エーイ!』なんてやっちゃえば倒れるに決まってんよぉおおお!」

 ハルはさらにウヒャウヒャと笑うと、幸四郎がフォークリフトで鋼材を持ち上げているのを、楽しそうに見ていた。
 

 


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
意外と (カミヤミ)
2009-04-07 14:58:50
ハルさんて、物理を分かってる感じですね。力任せでない所が。昔の担任は入学式、ワタクシは、内容証明砲を一通送りました。全く法に触れる事なく、相手が精神的に参るであろう点を丁寧な言葉で書き上げたつもりです。思わぬ所からワタクシに内容証明が届いたので、一応証拠として送りました。
返信する
お願いします (どんぴ)
2009-04-08 01:38:10
 内容証明って、こんなにも気軽に出すものなんですね(笑)
 カミヤミのさんのお話しを、是非『やりんちゅ』として連載して下さい(笑)

 
返信する
豆コロガシ (カミヤミ)
2009-04-08 14:43:54
ワタクシの一連の事件とは何の関係もありませんが、中高年以上のおばちゃんをメロメロにして金を引っ張り出す男の事を『豆コロガシ』と言います。豆とは、当然、栗とリスの事です。だいたい、50を過ぎて運命の出会いなどある訳もなく、歳を取れば取るほど相手の財布の中身を見て交際するに決まってんだろ!こんな感じの内容を1200円もかけて郵送するのが、内容証明ですね。無論、言葉には、細心の注意を払いつつ、まー、言い触らして良いよね?みたいな感じを行間に滲ませます。フィクションですけどね。
返信する
糞コロガシ (どんぴ)
2009-04-08 16:07:38
 な、なかなかリアリティのあるフィクションですね。特に1,200円という金額がリアルです(笑)

 上記のような人を『豆コロガシ』と言うのなら、う○こを食べてポルシェを買ってもらう人は、『糞コロガシ』という呼称でよろしいでしょうか?
返信する

コメントを投稿