どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ225

2008-07-01 23:26:35 | 剥離人
 年明け、衝撃的な事実が、渡からもたらされた。

「残念やけどな、水管橋の工事、やらんらしいわ!」
 電話の向こうの、渡のテンションの低さが、私にも伝わって来る。
「はぁ?年末のテスト工事はなんだったんですか?」
「ほんまやなぁ、ところでテスト工事のお金はどうなっとる?」
「『どうなっとる?』って常務、自分で所長に、『そんなもん、どうせ工事をやらせてもらうんですから、その程度はサービスでやらせてもらいますわ!』って、気持ち良く言ったじゃないですか」
「そうやった…かいな?」
「あははは、間違い無くそうです」

 小売業界の人には信じられないかもしれないが、建設業界とは、こういう『どんぶり勘定』がまかり通る世界である。
 例えば、土木資材(工事含む)の見積りで、
『45,785,000円』
 という見積書を現場の所長に持って行くと、
「君、なんだねこの端数の『85,000円』は!こんなもの普通は最初から『出精値引き(建設業界用語:頑張って値引きしましたという意味)』でしょう。こんな見積書を持って来ないでくれる?」
 と言われます。
 そこで、
『45,700,000円』
 という見積書を持って行くと、
「高いね!この端数の『700,000円』(端数なのか!?)、切れないの?切らないと土俵にも乗らないよ!?」
 とまで言われます。
 そこで、
『45,000,000円』
 という見積書を持って行くと、
「うーん、やっぱりこのラインは切らないとね」
 と言われ、最終的には、
『44,800,000円』
 という中途半端な数字で落ち着きます。

 これは、土木建設業という仕事が、そもそもすんなりと計画通りに物事が運ばないことに起因します。
 仕事の請負金額が一度決定したら、それがどんなに難工事でも、基本的には請け負った金額でやり抜くのがこの業界です。その代わり、すんなりと何のトラブルも無く、予定よりも早く、そして楽に工事が終わっても、
「やっぱり金を返せ!」
 などとは言われません。良い時も、悪い時も、請負金額でやり繰りするのが、土木建設業界なのです。
 従って、価格を決定する時も、大雑把に、そして感覚的に決定される事が多くなります。
「この金額ならウチの利益は十分あるな。今回は難工事っぽいし、この辺で下請けを叩くのは止めておくか」
 という感覚です。
「今回の工事はそんなに大変じゃ無さそうだし、しっかりと利益を出すか!」
 という感覚でもあります。
 
 渡や木田の、
「大きな工事を受注する可能性がある場合、半日で終わるテスト工事のお金を貰わない!」
 という姿勢は、この業界では至って正常な判断なのです。

 同じ建設業界でも、建築の方は若干雰囲気が異なります。
 下請業者が出した見積書は、最終的に
『半値八掛五割引(つまり見積り金額の20パーセント)』
 で契約になると言われる程です(例え話ですよ)。
 酷いゼネコンは、契約して、納入し、取り付けが終わった建築資材を、
「値引きしろ!(契約金額からさらに)値引き出来なきゃ持って帰れ!!」
 という始末です。(これはR社での実話。竣工寸前の高層ビルの建築資材なんて、どうやって外すのか教えてもらいたいです)

 私は渡に心の中で話し掛けた。
「常務、テスト工事の費用どころか、管内ロボット設計費の支払い、七十万円が後に控えていますよ!」
 だが心の中で話し掛けたので、渡からの返答は無かった。
 


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