思考ダダ漏れ

なんとなく書こう

和解

2017-06-03 07:52:14 | 日常
今週は講義で必要なので志賀直哉の『和解』を読んだ。『和解』は同時代評を見ても批判の声が少ない名作だ。ただ、近松秋江は面白い批判をしていた。簡単に書くと、父と子の不和があっても、この主人公はどうやらお金をもらって生活していらしいのだ。ぼんぼん息子でよおござんすね。みたいな批判だった。
  確かにその点は否定できないものの、それ以上に『和解』の良さはあの誠実に見える主人公だろう。小説に対する考え方、自分の意思を譲れない性格、そして、そのまま破滅するのではなく調和していく。これなら志賀直哉は小説の神様と呼ばれても仕方がない作品だった。
  特に好みなのは、小説に対する考え方で、父に対して口では悪口も沢山出せるけど、それを文章にするのは自分の仕事が穢れる気がして書けないというのだ。恨み辛みはあっても、書こうとはしなかった。僕はその姿勢が信仰と似たものに読めた。小説を書くということは、祈りと同じようなもので、自分を調和させていく方法でもあったのだろう。それがとても気に入った。最近の僕が考えていることにも似ているせいもあるだろうが、神経質なこと、親が金のあること、色々な要素が自分と重ねて読めた。ただ、最後まで意思を曲げずに調和していくこと、これだけが僕にはできそうになかった。本当に羨ましい限りだ。