くろにゃんこの読書日記

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山椒魚戦争 カレル・チャペック

2005年06月10日 | SF 海外
山椒魚(サンショウウオ)、皆さんは見たことがありますか?
私の場合、小学校のころ遠足で行った、
かのバナナワニ園でオオサンショウウオを見たのが初見でありました。
黒くて、大きくて(オオサンショウウオだからね)、ヌルヌルしてるという印象で、かわいいとか不気味とかいう感想を持つ前に、「生き物?」と思ったものです。
私は田舎育ちなので、おなかの赤い、田んぼに生息しているイモリとは仲良しさん(いえ、虐待していた記憶もありますが)だったので、まあ、それの親戚かなぁと。
さて、最近になりまして、TV「黄金伝説」で、よゐこの浜口さんがサンショウウオを捕まえて食べていたのを見まして、「食べられるの?」と思ったのですが、山椒の香りがするらしいんですね。
だから、山椒魚なわけです。

この「山椒魚戦争」に登場する山椒魚とは、その山椒魚の仲間なんですね。
ヴァン・トフというチェコ人の船長が、スマトラの近くに位置する小島、
タナ・マサに真珠貝の採掘場を求めてやってきます。
そこで、ヴァン・トフ船長は、地元の原住民が魔物がいるとして近づかない入り江、
デヴィル・ベイに目をつけます。
皆さんは、魔物の正体の察しはつきますね。
そう、山椒魚です。
さて、この山椒魚、アザラシぐらいの大きさで、
後ろ足で体をくねらせながらよちよち歩くんです。
かわいいですね。
昼間は海にいますが、夜になると海岸に上がってきます。
夜のデヴィル・ベイへ来た船長は、この山椒魚と対面するんです。
山椒魚は手に真珠貝を持っていました。
船長は、貝の中身が食べたいのだと察して、貝を開けてあげます。
山椒魚は貝をいただき、船長は真珠をいただく。
それを繰り返しているうち、貝を開けるまねをしている山椒魚に気づいた船長は、
ナイフを山椒魚の一匹に与えます。
すると、ナイフを使って貝をこじ開けるじゃありませんか。
愛着を感じ始めた船長は、サメに襲われているタバ・ボーイ(山椒魚のこと)をみて、
一考します。
船長がサメ狩り人を雇ってタバボーイを助け、
タバ・ボーイはナイフと真珠を船長と交換する。
天敵がいなくなったため、次第にタバ・ボーイたちの数は増えてきました。
そこで、船長は、タバ・ボーイを移住させながら、真珠の採掘場を増やし、その船で通商も行おうと思い立ち、自国の大企業家ボンディ氏を訪ねます。
これが、ことの発端です。

船長が亡くなり、真珠の価格も下落します。
ボンディ氏は、企業家として、さらに数を増した山椒魚の活用方法を思いつきます。
それは、労働力としての価値です。
本能で海中に防波堤を作る山椒魚の器用さを水中工事に利用し、
山椒魚を労働力として売り払おうというのです。
山椒魚は、人間の言うことをよく聞くし、おとなしい。
さらに、山椒魚は飼料と金属との交換だけで労働を提供するので、
資本家にとってはありがたい存在なのです。
国家は自国の海岸線を広げることに躍起になり、山椒魚の需要はさらに伸び、
山椒魚数は増え続けます。

やがて、山椒魚は人間が与える情報によって、知能を発達させていき、
高度な学術論文を発表する山椒魚さえ現れます。
ですが、人間と山椒魚の世界は、海と陸、昼と夜というように別々の生活を送り、大部分の人間は労働力や、財産としてしか、彼らのことを認識していないのです。
あるとき、ルイジアナを皮切りに、地震が立て続けに起こり、
土地が裂け、海水がなだれ込みます。
そして、「ハロー、ハロー、人間の皆さん。」という無線放送が聞こえてくるのです。

ストーリィを読みますと、
抑圧と搾取の問題が提起されているのがお分かりいただけると思います。
また、そればかりでなく、
利潤を追求するばかりの資本家や国家の行き着く先を示しているのです。
これは「ロボット U.R.U」のテーマの流れを汲んだもので、
戯曲とはまた違った小説というもので読ませてくれます。
それは、滅亡に向かって飛び込んでいく人間の姿であり、人間の教育を取り込んで知能を発達させた山椒魚は、人間の雛形であるとも考えられます。

ですが、私は微妙に異なった受け取り方をしています。
人間と山椒魚は、生物学的なことだけではなく、隔絶した存在であると思うんです。
どちらにも知性があり、数も多く、お互いがお互いの利にかなったことをしようとすれば、衝突は避けられないのではないでしょうか。
どちらかが滅び、どちらかが勝利したとしても、
やはりその先には困難が待っている、そのように考えます。

ボンディ氏の門番であるポヴォンドラ氏が、後年「あの時、ヴァン・トフ船長を取り次がなければ・・・」と後悔にさいなまれますが、責任は、タバ・ボーイ可愛さに、サメから身を守る術を教えてしまった、ヴァン・トフ船長にあるのかもしれないし、労働力として売ることを考えたボンディ氏であるかもしれない。
または、山椒魚を労働者として使った資本家、国家であるかもしれないし、山椒魚のための飼料としてトウモロコシを作っていた人々かもしれない。
考え出すと、何が悪く、何が良いことなのか、わからなくなってきますね。

今日、朝のニュースを見ていたら、オオサンショウウオがTVに映っていました。
大きな頭に、小さな手足。
直立して歩く姿を思い浮かべて、可愛いと思ってしまいました。
ヴァン・トフ船長の気持ちがわからないでもないですね。

山椒魚戦争


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
オオサンショウウオ (manimani)
2005-06-10 13:11:04
私は日光のその名も「両生類研究所」でオオサンショウウオを見ました。その後日光山中でライブな(笑)サンショウウオに出会いました。

あのサンショウウオがこんなことになってるなんてビックリです。未読ですがすごく読みたくなりましたです。

異質の知性体の衝突となると一気にテーマがSFっぽくなりますね。チャペックのビミョウに性格をつけがたさはそういうテーマの重層性にあるんではないかなと思いました。
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タイムリーな話題 (くろにゃんこ)
2005-06-10 18:42:18
「おおっ、サンショウウオ!」

今朝のニュースは私にとってとてもタイムリーでした。

240匹いるとされるオオサンショウウオ、無事に上流へと帰れるといいですね。



チャペックはこの本を1936年に書いているんです。

ファシズム批判や全体主義批判も垣間見え、戦争への批判として書かれたとする批評もあるようです。

ですが、私は、そのことにとらわれるべきではないと思います。

チャペックのあらわす人間性は、今、現在でも、本質的には変わっていないと考えるからです。



ま、難しいことはさておいて、タバ・ボーイは可愛いですし、ユーモアもふんだんにあって、面白く読めると思いますよ。
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Unknown (ぱいぽ)
2005-06-10 20:08:30
おー、山椒魚戦争、懐かしいです。

昔読みました。おもしろくて一気に読んだことを覚えています。今もどこかにうずもれているはず…読んでみようかな。
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ワニがいて、バナナがあって (ローズマリー)
2005-06-10 20:35:16
熱川バナナワニ園、私も行きましたよ。温泉につかった帰りに寄りました。

オオサンショウウオの実物を見ての感想は、つげ義春の漫画そっくりだってことでした。

でもここでだったかは、はっきり憶えてないな。とにかくワニはいっぱいいた。



異質の知性生命体の衝突、そうですね。ここで相手を人間型にすると、つまらなくなったんじゃないでしょうか。



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訂正 (ローズマリー)
2005-06-10 20:40:53
さっきURL入力間違えました。またやってしまった。何で間違えるんだか本人も不思議。上でクリックしても飛びません。
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コメントありがと! (くろにゃんこ)
2005-06-10 23:34:37
>ぱいぽさま

このお話は、出だしがユーモラスなので、そのノリでガンガン読んでしまいますね。

途中、新聞の切抜きなど、いろいろ盛りだくさんで、いったい戦争ってどんななんだろうと想像を膨らませたりして。

時間がたってからもう一度読むと、印象が違ったり、気づかなかったところとかが出てきたりするんですよね。



>ローズマリーさま

ははっ、またやっちゃいましたか(笑)

そんな貴方が素敵



バナナワニ園、行ったことあるんですか?

バナナとワニ、ご覧になったんですね。

そう、ワニはたくさんいるんです。

しかも、口あけて寝てて、ちっとも動かないんですよね。

動き回られても怖いんですが。

私がオオサンショウウオを見たのはかれこれ2×年前ですから、そのころのオオサンショウウオが生きているとは思えません。

あっ、でも寿命ってどれくらいなんだろ。



山椒魚でなくヒューマノイドだったら、どうだったでしょう。

う~む、残酷でどろどろした物語になりそうですね。

山椒魚の憎めなさが、この物語の魅力のひとつでもありますから。
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Unknown (oioi)
2010-08-04 02:00:12
サンショウウオって日本人の事をひにくってるんだろ?
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ひにくる (くろにゃんこ)
2010-08-08 19:11:52
コメントの文脈からすると、日本人をサンショウウオに見立てているということですよね。
支配/搾取という構図で見る限り、日本人はどちらの立場なのでしょうか?
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